著者
吉原 達也 笹栗 俊之
出版者
福岡医学会
雑誌
福岡医学雑誌 (ISSN:0016254X)
巻号頁・発行日
vol.103, no.4, pp.82-90, 2012-04-25

2型アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase 2:ALDH2)は,アルコール(エタノール)の代謝で生ずるアセトアルデヒドを酸化する酵素であり,人が酒に「強い」か「弱い」かは,この酵素の遺伝子多型に大きく依存することがよく知られている.しかし,ALDH2遺伝子多型は,単に飲酒の可否を決定するだけでなく,様々な疾患の発生や薬物の代謝と関連することが,近年明らかとなってきている.たとえば,低活性型の遺伝子型を有する人では,アルコール摂取後に血中や組織中に毒性を持つアセトアルデヒドが蓄積するため,高活性型の遺伝子型を有する人と比較して,消化管や肝臓などの癌化率が増加することが知られている.また2002 年以来,ALDH2がニトログリセリン(glyceryl trinitrate:GTN)を代謝(活性化)し,その薬効発現に関わることがわかってきた.今では,プロドラッグであるGTN をALDH2が還元代謝することで一酸化窒素(NO)が産生され,血管拡張反応が起きると考えられている.しかし,ALDH2遺伝子多型がGTNの血管拡張作用に及ぼす影響を調査する精度の高い研究は行われていなかった.そこで最近我々は,健康成人を対象とした臨床試験を実施し,GTN による血管拡張に要する時間はALDH2活性が低下するほど延長することを示し,ALDH2 がGTN 薬効発現に重要な役割を果たしていることを明らかにした.さらに,ALDH2が心血管保護作用を有する可能性が示唆されている.動物実験において,ALDH2は心筋虚血再還流後の心筋梗塞範囲を減少させることが示され,ALDH2が活性酸素種(ROS)や毒性アルデヒドを減少させることがその機序と考えられている.また,GTNはALDH2阻害作用を有することから,GTN の長期投与はALDH2を抑制することにより心血管障害を悪化させる可能性も考えられる.本稿では,ALDH2 遺伝子多型と臨床医学との関わりについて,最新の知見に基づき概説したい.
著者
三輪 宜一 田場 洋二 宮城 めぐみ 笹栗 俊之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.123, no.1, pp.34-40, 2004 (Released:2003-12-23)
参考文献数
27
被引用文献数
4 4

プロスタグランジンJ2(PGJ2),Δ12-PGJ2,15-デオキシ-Δ12,14-PGJ2(15d-PGJ2)の三者を含むPGJ2ファミリーは,生体内ではアラキドン酸代謝の過程においてPGD2が非酵素的に変換され生成される.これらPGJ2ファミリーの薬理作用としては,古くからがん細胞やウイルスの増殖を強力に抑制することが知られていた.しかしながらその他の作用についてはほとんど知られていなかった.その後,1995年にPGJ2ファミリーが脂肪細胞の分化に必要な核内受容体peroxisome proliferator-activated receptor γ(PPARγ)のリガンドであることが明らかになって以来,研究が飛躍的に進んだ.特に15d-PGJ2は現在のところ最も強力な内因性PPARγリガンドとして知られており,抗炎症作用,アポトーシス抑制および誘導作用,分化誘導作用等の新たな薬理作用を有することが見出された.本稿では主に心血管系の細胞を中心に,これまでに明らかにされたPGJ2ファミリーの薬理作用およびその機序についてまとめた.