著者
種本 俊 筋野 智久 金井 隆典
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.408-415, 2017 (Released:2018-01-25)
参考文献数
34
被引用文献数
3 6

ヒトには1000種,100兆個を超える腸内細菌が存在する.これらが構成する腸内細菌叢は免疫や代謝を介して宿主であるヒトと複雑な相互作用を形成し恒常性を維持している.腸内細菌叢の構成菌種の変容や異常増殖,減少はdysbiosisと呼ばれ,ヒトの腸管のみならず,全身の免疫系,代謝機構に異常を引き起こす.脂肪肝炎やメタボリックシンドローム,関節リウマチ,自閉症,多発性硬化症などさまざまな疾患にdysbiosisが寄与している可能性が示唆されている.近年の腸内細菌解析技術の発展により,ヒトの腸内細菌叢を構成する菌種の同定のみならず,代謝やタンパク質発現を介した複雑な相互関係が明らかになってきている.また,腸管上皮細胞や免疫細胞と腸内細菌との相互作用の実際が分子レベル,遺伝子発現レベルで明らかになってきており,それぞれの疾患の病態解明や新しい治療対象として実用化が期待される.炎症性腸疾患においてはCrostridium butyricumなどの酪酸産生菌が炎症抑制作用を持ち,注目を集めている.また腸内細菌叢を対象としたFMT(Fecal microbiota transplantation)も実用化に向けて検討が進められている段階である.
著者
筋野 智久 金井 隆典
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.399-411, 2012 (Released:2012-10-31)
参考文献数
62
被引用文献数
1

潰瘍性大腸炎およびクローン病に代表される炎症性腸疾患は,近年までCD4+ Tリンパ球における‘Th1/Th2サイトカインバランス'仮説に基づいて疾患が考えられてきた.近年,炎症を抑制する能力を持つ制御性T細胞,Th17細胞集団が登場し,最近ではIBDやIBDモデルを含むさまざまなヒト免疫疾患および動物モデルにおいて制御性T細胞の異常やTh17細胞の増加こそが真の病因ではないかと議論が広まっている.これまで,T細胞は最終的なeffector細胞になるとほかの細胞には変化しないとされていたが,T細胞間でも環境により表現型が変わることがわかり可塑性(Plasticity)という概念が構築されつつある.腸内細菌を含めた周辺の環境によりT細胞が誘導され,それぞれT細胞同士も周囲の環境によりPhenotypeを変えていることが判明しつつある.このような状況の中,炎症性腸疾患の原因が一つの因子でなく,多因子であり,T細胞の関与も複雑であることが判明してきている.これまで得られた結果をもとに炎症性腸疾患におけるT細胞の病態への関与についてT細胞の分化を踏まえて検討する.