著者
カイザー シュテファン Stefan Kaiser 筑波大学文芸・言語学系 University of Tsukuba
雑誌
世界の日本語教育. 日本語教育論集 = Japanese language education around the globe ; Japanese language education around the globe (ISSN:09172920)
巻号頁・発行日
no.5, pp.155-167, 1995-04-28

中国の文字体系と比べて、全体としての日本の文字体系は「世界の文字」の中で従来あまり注目されず、文字学ではむしろ漢字から発達した仮名文字に興味が集中した。 本稿は文字のタイポロジーとその問題点を概観してから、中国の体系と3大表語文字体系であるエジプト、シューメル、マヤの体系との相違点の分析を行なう。とくに、3システムにおける象形文字内部に表音性が備わっていないことや、それにともなって同じ象形文字が補音符などとして早い段階で使われるようになった点に注目する。それに対して、中国の漢字が量 的に他のシステムと比べて圧倒的に多い事実は、その文字に内在する表音性によるもので、他のシステムのような文字の表音的使用が発達しなかった。以前から一部の人がいっているように、中国の漢字は形態素音節文字というべく、表語文字ではない。その考えの正当であることは最近の実験の結果 でも確認できる。 日本のシステムにおける漢字は、中国の場合と違って基本的に一字多音である。そこでエジプト、シューメル、マヤの体系と同様に多読字の読み方は文脈に頼るだけでなく、送り仮名など表音文字で補助的に示す傾向がある。エジプト、シューメル、マヤの文字体系を表語文字と呼ぶなら、日本語のシステムもその範疇に入れることになるが、同じ漢字を使う中国語のためには別の分類が適当である。