著者
若月 俊一 松島 松翠 荒木 紹一 筒井 淳平 白井 伊三郎 高松 誠
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.399-413, 1973-01-10 (Released:2011-02-17)

長野, 愛知, 三重, 徳島, 福岡の5地区において, 同一の調査方法により, ハウス栽培従事者の健康調査を行なった。調査人員は, 昭和45年415名 (男230名, 女185名), 昭和46年458名 (男185名, 女273名) であるが, 別に対照として, 一般農家を昭和45年152名 (男73名, 女79名), 昭和46年281名 (男118名, 女163名) 同一方法で調査した。このうち農繁閑期を通じて同一人を調査できた30代, 40代のものについて, ハウス栽培状況及び健康状況を分析した結果は次の如くである。1) 各地域におけるハウス栽培状況の比較調査対象農家1戸あたりのハウス栽培面積は, 三重。が最も多く, 29.7a, 長野が13.5aでもっとも少なかった。暖房の設備状況は, 各地域によって異なるが, そのうち煙突を装備しているものは, 愛知, 三重, 徳 島では大部分であるが, 長野及び三重では約半数に過ぎなかった。その他副室, 換気窓, 面側扉の設備は地域により差異がある。農薬はハウス内でかなり使われており, 有機硫黄剤が多いが, その他の強毒性殺虫剤も多かった。2) 各地域及び農繁閑期における健康状態の比較労働時間は, 一般に農繁期, しかも女子に多く, 睡眠時間は, 逆に農繁期, 女子は少ない。ハウス栽培作業の最盛期には, ハウス内作業は1日8時間にも及んでいる。農夫症症候群は農繁期に多く, 症状としては, 肩こり, 腰痛が多く, 男子に比べて女子に多い。自覚的疲労症状も同様で農繁期に多く, 女子に多い傾向にある。地域別では, 農夫症症候群は三重, 福岡に多く, 疲労症状の発現率は福岡に多くみられた。検査成績では, 女子に貧血の傾向がみられるが, とくに農繁閑期で大きな差はみられない。地域別には若干の違いがみられた。血清コリンエステラーゼ活性値が20%近く異常値を示したことは, 今後ハウス内の, dermal absorption riskのほかに, inhalational exposureの危険についてもさらに深い調査を行なわねばならないことを示すものと思われる。3) ハウス栽培農家と対照農家の健康状態の比較労働時間は, ハウス栽培農家の方が対照農家に比べて多く, とくに女子において著明である。睡眠時間は, ハウス栽培農家の方が少ない傾向がみられた。農夫症症候群は, 農繁期にはハウス栽培農家に多い傾向がみられ, 症状として, 肩こり, 腰痛, めまい, 不眠などがハウス栽培農家に多い。疲労症状もとくに農繁期には, ハウス栽培農家に高いが, 「頭が重い」「全身がだるい」「肩がこる」「体のどこかがだるい」「足がだるい」 といった症状が多くみられた。また検査成績では, ハウス栽培農家に肝機能異常や血清コリンエステラーゼ活性値低下を示すものが若干みられた。以上の結果により, ハウス栽培従事者には, 一般農家にくらべて, とくに農夫症, 疲労症状等, 自覚症状が多くみられており, これらはハウス病症候群と呼ばれる症候群の一部を構成している。そして, その原因として高温多湿の作業環境, 農薬散布, 作業姿勢等が考えられるが, 今後, 予防対策として, ハウス内の構造の改善, とくに大型換気扇の設置, また労働条件の改善, とくに農薬散布方法の改善等が必要であろう。さいごに, 去る第5回国際農村医学会 (ブルガリヤ・バルナ市) における東欧諸国の研究や調査の発表では, ハウス栽培における農薬散布が原因する健康障害のテーマが, 少なからずとりあげられていたことをとくに付記する。