著者
永迫 俊郎 箕田 友和 髙山 正教
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

<b>はじめに </b>「種子島・海の学校」は2016年7月で8回目となる短期集中型のサイエンスキャンプである.本研究は,野外教育の有する多角的な効果について,海の学校を事例に明らかにしようとする試みで,子どもたちがどのように成長したか,種子島という地理的条件を踏まえつつ考察していく.全貌の理解が困難といえる野外教育に対して,環境地理学の視点から独自にアプローチできればと意図された研究である.<br><br><b>3</b><b>回の参与観察 </b> このサマーキャンプを総括する教頭先生のH氏の勧めにより,髙山は2014,2015,2016年7月の三度,箕田は2015,2016年7月の二度,海の学校のスタッフを務める好機を得た.子どもたちは教室から離れて日常生活とは異なった自然環境の中で生活することによって,はだで自然に触れ,大自然の懐の中に入ることによって全体として自然についての理解を深め,生物相互の依存関係や人間と自然との関係についての理解をも深めることができる(江橋,1987)という野外教育の最大の特色に注目しながら,4泊5日,3泊4日で行われた活動全般について参与観察を行った.<br><br><b>海の学校の活動内容 </b>種子島・海の学校は,浦田海水浴場でのキャンプを基軸に島中をくまなくまわるメニューが用意されている.参加者は理科実験を取り入れたサイエンス塾にふだん通っており,多彩なプログラムの中から種子島を選んだ子どもたちを塾のスタッフが大阪や広島から引率してくる.塾の先生も同行するものの,サイエンスキャンプ中は現地スタッフが主導権を握る.大阪と広島の子どもが一緒になることはなく,参加者数(10~30名)およびこれに連動する予算規模に応じてメニューや現地スタッフの人数が調整される.<br> スタッフは子どもから先生と呼ばれ,様々な野外活動を共に行い健康・安全管理,食事の準備等をする.活動内容の計画や遂行はH氏が統括し,必要時には助っ人が合流する.内容は,犬城海岸での古第三紀の化石採集から宇宙科学技術の最先端である種子島宇宙センター見学まで多岐にわたり,エリア的にも最北端の喜志鹿﨑灯台から南東部の宇宙センターまで種子島を縦断するものである.拠点は島の北端近くにある浦田海水浴場で,西之表市街地から多少離れた場所に位置し,砂浜と隣接する浦田キャンプ場は自然豊かである.<br> <br><b>子どもたちの成長</b> 子どもたちは観察や採集を通して自然環境の諸事象に興味・関心を抱き,とくに採集時には工夫を凝らし積極的に行動していた.自然の美しさに対する感動や面白さを出発点とし,主体的に行動を起こし創意工夫に至る一連のプロセスの中で,子どもたち同士が互いに働きかけ成長する場面もあった.遊びの体験,自然とのふれあい,生活体験・労働体験と大人側は分類してメニューを提供するが,子どもの側にとってそうした類型化は意味をなさずそれらは融合し独自の色合いを帯びてくる.子ども特有のこうした化学反応が促進されるのは,直接体験という五感を駆使した本物の経験があってこそである.ダイビング体験は,海の学校が用意している子ども成長反応の触媒の一つである.<br> &nbsp;教室における学習と違って野外教育は計画通りに催行されるとは限らず,変更を余儀なくされることも少なくない.海の学校2014は台風接近のため1日旅程が短縮され,帰路の高速船での船酔い体験もできれば避けたかったが,予期せざる学習場面としては非常に好例である.台風と波浪も成長反応の触媒となりうる.また,自然や環境を総体としてシームレスに理解する手がかりは,体系化された個々の教科教育の中にはなく,子どもたちが五感を使った直接体験にこそ潜んでいる.多感な子どもの成長にとって,実際の現場に身を置いてこそ得られる自然の豊かさや美しさに対する感動,心を揺り動かされる経験が鍵を握っている.野外教育の多角的な効果のお陰で,子どもたちは確かに成長して帰って行った.<br><br><b>まとめ</b> 教育は指導者と子ども,子ども同士の相互作用の結果と痛感させられる.野外教育について,裾野の広がりと多彩な教育的効果をある程度明示できたのは,個々の活動に焦点を絞らず全体を通した解釈を試みたためと考える.個体進化は系統進化の過程をたどるというが,海で誕生した生命の一枝である我々人間は母胎の思い出も影響してか海に親近感をおぼえる.前半2泊は,波の音が子守歌になる浦田浜でのキャンプである.海水浴やダイビング体験はまさに海に入る.海での遊びの体験で起こし,自然とのふれあい(解説)さらに生活体験・労働体験を盛り込み,フィールドも種子島一円に広げていく.「野外のための」,「野外についての」,「野外による」の三要素をカバーし,種子島ならではのロケットセンターでサイエンス塾の子どもたちに未来像を描かせる.一連の活動に常に寄り添うのは種子島の美しい海である.