著者
森脇 広 永迫 俊郎 奥野 充
出版者
特定非営利活動法人 日本火山学会
雑誌
火山 (ISSN:04534360)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.31-44, 2022-03-31 (Released:2022-04-26)
参考文献数
39

The southwestern rim of Aira caldera, which is situated at the head of Kagoshima Bay, is critical for examining late Pleistocene and Holocene crustal movements of the caldera with respect to volcanic activity. A suite of Pleistocene and Holocene sea-level and eruption records occurs in combination in exposures on the rim, and so tectonic displacement of the caldera as well as volcanic activity in historical times are both obtainable. Using elevations of coastal landforms and deposits, and with a chronology determined via tephrochronology and archeological remnants, we examined vertical crustal movements of the Aira caldera in the late Pleistocene and Holocene, and compared these movements with historical movement in the light of concomitant volcanic activity. The main conclusions are as follows. Aira caldera has been subjected to distinct uplift, with an average rate of 0.5-0.8 mm per year over the past ~108,000 years. The uplift rate of 0.8-1.1 mm per year, from ~7000 cal BP to the present, appears to be higher than that, 0.4-0.7 mm per year from ~108,000 to ~7000 cal BP. Comparison of these late Quaternary uplift rates with those in historical time clearly suggests that volcanic activities of Aira caldera are responsible for the late Quaternary vertical movements in and around Aira caldera. The results help to evaluate future eruptions of Aira caldera, and to examine the relationships between the late Quaternary crustal movement and volcanic activities in other gigantic calderas without sea-level remnants.
著者
永迫 俊郎
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 = Bulletin of the Faculty of Education, Kagoshima University. Cultural and social science (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
no.71, pp.29-38, 2020

われわれ人間は環境を認識するさい自ずと主体を切り替えて考えているが,どうしても自分中心になってしまう.人間は落ち着く先を求めて,自分のふるさと(故郷),自分の位置,私はどうするのだということを問い続ける.そこで基盤になるのはそれまでに培った経験で,環境世界の見え方が人によって異なるのはそのためである.鹿児島大学のCOC事業に携わるなかで「島立ち」の重要性に気付き,2017年3月に知名中学生を対象に「故郷(沖永良部島・校区・字)との関わりについてのアンケート」を行った.さらに,2019年7月に大島高校の生徒に対して「郷土・故郷と島立ちに関するアンケート」を実施できた.これらの沖永良部島と奄美大島の生徒に対するアンケート結果にもとづいて,環境世界を認識する基準として「身近な地域」がどのような役割を担っているか検討してみた.その結果,住民のほとんどが一度は島立ちしている周囲の状況や,出身者の郷土会に接してきた経験が,世界認識の基準となる身近な地域と自己の関係性への考究に繫がるのであろうと指摘した.
著者
森脇 広 永迫 俊郎 鈴木 毅彦 寺山 怜 松風 潤 小田 龍平
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p><b> </b></p><p><b>はじめに:</b>南九州・南西諸島の古環境と文化の諸要素の高精度編年を進めている.今回は南西諸島の喜界島のテフラと古砂丘を取り上げる.喜界島は全島がサンゴ礁段丘からなる.段丘は多くの年代測定が行われ,最終間氷期MIS 5eの段丘面が標高200mに達し,日本では隆起量が最も大きいことで知られる.このため,最終氷期の亜間氷期MIS 3の段丘面群(上位からD面,E面,F面:太田・大村,2000)が高度90m~15mで,現在の陸上に広く出現している.</p><p></p><p><b> </b>砂丘は喜界島南西部のMIS 3の段丘地帯を広く覆う.それらは,現在の海岸近くにある完新世の砂丘,内陸のMIS 3面上に分布する更新世の水天宮古砂丘(角田,1997)からなる.その地形や堆積物,形成時期について,古くから関心が持たれてきた(三位・木越,1966;武永,1968;成瀬・井上,1987など).</p><p></p><p> 最近,水天宮砂丘地帯において,広範囲の耕地整理工事がなされ,砂丘の地形と堆積物の全体的な様相が明らかとなってきた.この報告では,水天宮古砂丘の分布と堆積物の構造,テフラの同定・編年,及び<sup>14</sup>C年代資料に基づく古砂丘の編年と形成を検討する.</p><p></p><p> <b>テフラ</b>:喜界島のテフラについては,同定や層序,年代などまだよくわかっていない.今回の調査で,9枚のテフラを見いだした.このうち2枚は,バブルウォール型の火山ガラスを豊富に含むガラス質火山灰で,上位はK-Ah, 下位はATに同定される.他の7枚は斑晶や微細軽石に富む淡褐色火山灰で,ここでは,上位からKj-1〜Kj-7と名づける.鉱物は斜方輝石,単斜輝石,角閃石,磁鉄鉱,チタン鉄鉱,長石,石英で,スコリアを含むものもある.全体として特徴的に高温石英を含む.それらの鉱物の含有の有無・度合い,層相・層位などからそれぞれのテフラの識別が可能で,南西諸島の島々やトカラ列島の諸火山でこれまで知られているテフラに一部対比可能なものもみられる.ATはKj-6とKj-7の間にある.K-AhとKjテフラ群との層位関係は同一露頭断面で直接確認できないが,土壌の厚さなどから,K-AhはKjテフラ群より上位にあるものと推定される.</p><p></p><p><b> 砂丘の地形と堆積物:</b>これまで水天宮古砂丘は,喜界島南西部の孤立した丘陵一帯を広く構成しているとされてきた.しかし今回の調査で,水天宮古砂丘とされる丘陵の南半部のほとんどは基盤のサンゴ石灰岩からなるD面,E面で,砂丘はこれらの段丘面を部分的に覆っているにすぎないことが明らかとなった.南半部では,段丘崖や崖上にリッジ状に分布しており,当時の海岸沿いに形成されていったことを示す.</p><p></p><p> 一方,北半部は最大20m以上に及ぶ厚い砂丘堆積物が全体を覆う.部分的には膠結砂丘砂からなっている.この中には少なくとも2枚の土壌が挟まれる.砂丘地形は南北に細長い谷を挟む砂丘列をなす.テフラと下記の<sup>14</sup>C年代は,谷と砂丘の形成期はほぼ同じであることを示す.したがって,谷は砂丘形成後の侵食によってできたものではなく,砂丘形成時の凹地として形成されたもので,水天宮北側の砂丘列は縦列砂丘として形成されたと解釈される.いくつかの地点での堆積物の層理の走向も,この砂丘列の方向と調和し,北方の海岸からの砂の運搬・供給を示す.この水天宮古砂丘はMIS 3段丘群最下位のF面の北端まで続き,この付近の海浜からの砂の供給によって形成されたことを示す.</p><p></p><p> <b>砂丘の編年と形成</b>:古砂丘堆積物を覆う土壌中に認められる上記テフラのうち,もっとも古いのはATである. Kj-7は現在のところ認められない.北半部の厚い砂丘堆積物上部から得られた陸生貝化石の<sup>14</sup>C年代は33,000〜34,000 cal BPを示し,テフラ編年と整合する.ATの層位とこの年代からみて,水天宮古砂丘の主要部をなす北半部の古砂丘は,MIS 3後期の3.5万年前前後に形成されたものと考えられる.段丘面との関係,テフラ,<sup>14</sup>C年代を総合すると,水天宮古砂丘は,MIS 3前期は当時の海岸縁辺に小規模な砂丘が形成され,後期になると,北側の海岸からの砂の供給による大規模な砂丘形成があったと考えられる.</p>
著者
永迫 俊郎 箕田 友和 髙山 正教
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

<b>はじめに </b>「種子島・海の学校」は2016年7月で8回目となる短期集中型のサイエンスキャンプである.本研究は,野外教育の有する多角的な効果について,海の学校を事例に明らかにしようとする試みで,子どもたちがどのように成長したか,種子島という地理的条件を踏まえつつ考察していく.全貌の理解が困難といえる野外教育に対して,環境地理学の視点から独自にアプローチできればと意図された研究である.<br><br><b>3</b><b>回の参与観察 </b> このサマーキャンプを総括する教頭先生のH氏の勧めにより,髙山は2014,2015,2016年7月の三度,箕田は2015,2016年7月の二度,海の学校のスタッフを務める好機を得た.子どもたちは教室から離れて日常生活とは異なった自然環境の中で生活することによって,はだで自然に触れ,大自然の懐の中に入ることによって全体として自然についての理解を深め,生物相互の依存関係や人間と自然との関係についての理解をも深めることができる(江橋,1987)という野外教育の最大の特色に注目しながら,4泊5日,3泊4日で行われた活動全般について参与観察を行った.<br><br><b>海の学校の活動内容 </b>種子島・海の学校は,浦田海水浴場でのキャンプを基軸に島中をくまなくまわるメニューが用意されている.参加者は理科実験を取り入れたサイエンス塾にふだん通っており,多彩なプログラムの中から種子島を選んだ子どもたちを塾のスタッフが大阪や広島から引率してくる.塾の先生も同行するものの,サイエンスキャンプ中は現地スタッフが主導権を握る.大阪と広島の子どもが一緒になることはなく,参加者数(10~30名)およびこれに連動する予算規模に応じてメニューや現地スタッフの人数が調整される.<br> スタッフは子どもから先生と呼ばれ,様々な野外活動を共に行い健康・安全管理,食事の準備等をする.活動内容の計画や遂行はH氏が統括し,必要時には助っ人が合流する.内容は,犬城海岸での古第三紀の化石採集から宇宙科学技術の最先端である種子島宇宙センター見学まで多岐にわたり,エリア的にも最北端の喜志鹿﨑灯台から南東部の宇宙センターまで種子島を縦断するものである.拠点は島の北端近くにある浦田海水浴場で,西之表市街地から多少離れた場所に位置し,砂浜と隣接する浦田キャンプ場は自然豊かである.<br> <br><b>子どもたちの成長</b> 子どもたちは観察や採集を通して自然環境の諸事象に興味・関心を抱き,とくに採集時には工夫を凝らし積極的に行動していた.自然の美しさに対する感動や面白さを出発点とし,主体的に行動を起こし創意工夫に至る一連のプロセスの中で,子どもたち同士が互いに働きかけ成長する場面もあった.遊びの体験,自然とのふれあい,生活体験・労働体験と大人側は分類してメニューを提供するが,子どもの側にとってそうした類型化は意味をなさずそれらは融合し独自の色合いを帯びてくる.子ども特有のこうした化学反応が促進されるのは,直接体験という五感を駆使した本物の経験があってこそである.ダイビング体験は,海の学校が用意している子ども成長反応の触媒の一つである.<br> &nbsp;教室における学習と違って野外教育は計画通りに催行されるとは限らず,変更を余儀なくされることも少なくない.海の学校2014は台風接近のため1日旅程が短縮され,帰路の高速船での船酔い体験もできれば避けたかったが,予期せざる学習場面としては非常に好例である.台風と波浪も成長反応の触媒となりうる.また,自然や環境を総体としてシームレスに理解する手がかりは,体系化された個々の教科教育の中にはなく,子どもたちが五感を使った直接体験にこそ潜んでいる.多感な子どもの成長にとって,実際の現場に身を置いてこそ得られる自然の豊かさや美しさに対する感動,心を揺り動かされる経験が鍵を握っている.野外教育の多角的な効果のお陰で,子どもたちは確かに成長して帰って行った.<br><br><b>まとめ</b> 教育は指導者と子ども,子ども同士の相互作用の結果と痛感させられる.野外教育について,裾野の広がりと多彩な教育的効果をある程度明示できたのは,個々の活動に焦点を絞らず全体を通した解釈を試みたためと考える.個体進化は系統進化の過程をたどるというが,海で誕生した生命の一枝である我々人間は母胎の思い出も影響してか海に親近感をおぼえる.前半2泊は,波の音が子守歌になる浦田浜でのキャンプである.海水浴やダイビング体験はまさに海に入る.海での遊びの体験で起こし,自然とのふれあい(解説)さらに生活体験・労働体験を盛り込み,フィールドも種子島一円に広げていく.「野外のための」,「野外についての」,「野外による」の三要素をカバーし,種子島ならではのロケットセンターでサイエンス塾の子どもたちに未来像を描かせる.一連の活動に常に寄り添うのは種子島の美しい海である.