著者
範 俏慧
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.101, pp.91-110, 2017-11-30 (Released:2019-06-14)
参考文献数
21

本稿は,大卒者の学校から職業への移行を「成人期への移行」の一局面として捉え,中国の小都市出身の大卒者の就職プロセスに焦点を当て,職業選択(就職地選択及び就職先選択)における「親の意向」による影響と,就職時における「家族・親族ネットワーク」の効果との2つの要素に注目し,中国の大卒者の就職における家族の影響を明らかにすることを目的とする。 分析の結果,以下のことが明らかになった。共産主義の遺制と強い家族主義の文化を残したまま急激な市場経済を導入した中国においては,大卒者の就職プロセスは,依然として戸籍制度や労働市場における体制内外の分断といった構造的・制度的要因によって制約されている。大卒者及びその家族はその中で可能な限り有利な就職機会と将来設計を手にするために,私的な家族・親族ネットワークを動員している。家族・親族ネットワークの効果は,ネットワーク自体の地域的広がりの度合いにより一定程度規定されている。そのような「家族戦略」とも言える中国の大卒就職のあり方は,個人としての大卒者にとって制約と資源という両義的な意味をもつ。 本稿の分析が示唆するように,大卒の就職を「成人期への移行」の一部として捉えることで,大卒者の就職が埋め込まれている「社会構造」を,これまでよく分析の射程に入れられてきた「大卒労働市場」及び「社会ネットワーク」を超え,より包括的に検討することが可能となる。