著者
篠澤 毅泰 吉田 和恵 波多野 陽子 辻 哲也
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E4P3184, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】 当院では入院患者に対し、リハビリ時間以外でも自主訓練が行えるよう、自主トレーニング(以下、自主トレ)を実施しているが、定着する患者と定着しない患者がいるのが実状である。渡邊らは外来患者を対象とし、自主トレの定着効果にセルフエフィカシー(ある結果を生み出そうとしたときの行動選択に直接的な影響を及ぼす因子のことで、自己効力感・自己遂行可能感と訳す、Banduraが提唱)が関与することを報告したが、入院患者を対象とした研究はいまだない。また、自主トレ定着効果についての研究は少なく、不明な点も多い。 本研究の目的は、入院患者を対象としてQOL尺度である生活満足度、セルフエフィカシー等を評価し、分析・検討することにより、自主トレ定着に影響を及ぼす因子を特定することである。【方法】 対象は当院入院患者のうち、認知症・失語症・高次脳機能障害の診断がなく、病棟内の移動およびトイレ動作が自立している当院入院患者とした。対象者に対して自主トレを導入、日々の実施記録を1週間記載してもらい、毎日自主トレを実施できた患者を定着群、1日でも実施できなかった患者を非定着群とした。 自主トレ提案時に、ADL評価としてFIM(機能的自立度評価法)、主観的QOL評価として生活満足度尺度K(以下、LSIK)、セルフエフィカシーの評価として一般性セルフエフィカシー尺度(以下、GSES)を評価した。 定着群、非定着群の2群間で各評価項目について比較検討を行った。統計処理にはMann-WhiteneyのU検定を用い、5%未満を有意水準とした。【説明と同意】 本研究の内容、自主トレの内容と効果については各担当者より説明し、同意を得た上で実施した。なお、当院の倫理委員会で承認を得た上で実施した。【結果】 対象者は18名、定着群は11名、非定着群は7名であった。内訳は男性8名、女性10名、平均年齢74.8±12.1歳、整形疾患8名、脳血管疾患10名であった。2群間に性別、年齢の有意な差は認めなかった。 2群間の比較では、GSESにおいて定着群10.9±2.8、非定着群5.9±3.9であり有意差(P<0.01)を認めた。一方、LSIKは定着群3.5±2.7、非定着群3.0±2.6、FIMは定着群107.4±8.2、非定着群103.1±10.1、発症からの日数は定着群100.9±42.0、非定着群94.1±28.8であり、いずれも有意な差を認めなかった。【考察】 渡邊らの先行研究と同様に、当院入院患者においても自主トレの定着効果にはGSESが関与していた。GSESは個人が生活していく状況の中で、困難な状況にどの程度耐えられるのかに関連する要因であり、広い意味での精神的健康と密接な関係があるといわれている。その得点が高い個人ほど困難な状況で、「問題解決行動に積極的に取り組み、自分の意志、努力によって将来に展望をもつという時間的展望に優れる」「自分の行動は努力や自己決定の結果であるという意識が高く、何に対しても努力しようという態度がみられる」と考えられている。 本研究においても自主トレという課題に対してGSESが高い患者ほど積極的に行い、定着するということが認められた。またLSIKにおいて有意な差が認められなかったことから、自主トレ定着には生活に満足している、満足していないという主観的QOLは関与していないことが分かった。 今後自主トレの定着効果を求めるうえで、GSESがその指標となる可能性が示唆された。GSESが高い患者は、自主トレ定着に対し特別な関わりを必要としないが、GSESが低い患者は、積極的に取り組むことが困難な場合があり、自主トレの提案方法や自主トレ提案後のセラピストの関わり方などに何らかの工夫が必要になると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 入院患者においても自主トレの定着効果にGSESが関与していることが分かり、LSIKは関与していないことが分かった。今後自主トレを提案する際にGSESの得点で、より積極的な関わりが求められる患者かどうかの選別ができる可能性がある。例えば、GSESの低い患者を集め、特定の関わり方をした群と通常の関わり方をした群で定着率に差が出るかを検証するなどして、GSESが低い患者の自主トレ定着には、どのような工夫や関わり方が必要になるかについて、今後検討していきたい。