- 著者
-
米村 典子
- 出版者
- 九州芸術工科大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1997
グリゼルダ・ポロックの1998年の論文「モダニティと,女性性の空間」はフェミニズム美術史の中でも,男性/女性,見る/見られるの二項対立構造を脱構築しようとした画期的論文であった.だが結びに至ってポロックは,同性の間でのみ女性は見る主体として自由になれるととれる論調に転じ,二元論に回帰している.本研究では,画家とモデルの見る/見られるの関係が最もむき出しで立ち現れるアトリエという遮蔽された空間に注目し,アトリエにおける女性画家の眼差しの性格を明らかにすることと,それによりポロックのいう「女性性の空間」に従来とは別の角度から批判と展望を加えることを目的とした.・平成9年度1)文献資料収集:印象派の女性画家ベルト・モリゾやメアリ・カサットだけでなく,19世紀後半によりアカデミックな作風で描いた女性画家たちの書簡集,画集などの資料を収集し,検討した.2)視覚資料の収集とデータベース化:個人のアトリエおよび美術学校の教室としてのアトリエの写真を収集し,検討した.女性画家たちの作品やアトリエ内を描いた絵画や写真資料については,スライドに撮影し,コンピュータに画像として取り込みデータベース化した.・平成10年度1)引き続き資料収集の解読・検討,入手した資料のデータベース化を順次行った.2)女性画家の自己イメージをその表像から検討する.この点で興味深い画家として,日本では未紹介のマリー・バシュキルツェフを発掘し,その生涯と作品について調査を行った.・平成11年度バシュキルツェフについては,「「描/書く」女――マリー・バシュキルツェフとフェミニズム美術史」というタイトルで論文集『女性たちの近代』(勁草書房2000年出版予定)においてまとめた.また,研究成果報告書では,ポロックが『女性性の空間」を示しているとしたアトリエのモリゾとモデルの写真の再検証を出発点として,アトリエという空間にいる女性画家という視点からポロックの二元論を回避する新視点を提起した.