著者
米澤 昌子 Masako Yonezawa
出版者
同志社大学大学院日本語学研究会
雑誌
同志社日本語研究 = Doshisha studies in Japanese linguistics (ISSN:21885656)
巻号頁・発行日
no.19, pp.46-58, 2015-09-30

本稿では、『朝日新聞』に掲載された記事を対象とし、「てほしい」と「てもらいたい」の使用実態を明らかにした。両者の使用総数、文体別の使用数、動作主の明示と助詞の使用、動作と聞き手の関係等の観点から分析を行った。その結果、新聞では「てほしい」が圧倒的に多く使用されていた。その使用は、動作主が聞き手ではなく、特定多数であり、明示されないといった形が最も一般的な使用場面であったことを指摘する。
著者
米澤 昌子
出版者
同志社大学
雑誌
同志社大学留学生別科紀要 (ISSN:13469789)
巻号頁・発行日
pp.105-117, 2001-12

使役形+「ていただく」の本来の用法は,相手の使役行為により被使役行為者(多くが話し手)が行為を行うことを意味する。しかし,近年,「全国どこへでもお届けさせていただきます」「もう数十年勤めさせていただいております」のように,明確な使役行為が見られない場面でも頻用される。このような拡大用法について,本稿ではドラマ等のシナリオを会話資料とし,「〜(さ)せていただく」の待遇表現性を中心に語の使用状況から使役形+受給補助動詞の考察を行った。その結果「〜(さ)せていただく」の拡大用法は,A話し手の行為の申し出,B話し手の行為遂行宣言,C話し手の自分本位的な被使役行為者としての認識,の三つに分類できることが分かった。またこの表現は近現代に発生・定着したものと思われる。使役形を伴う「ていただく」は,語の性格上相手に許可される,許されることを表現する。この表現の頻用は,相手との関わりを許可されるという形で表現することで,丁寧さを重んじていることを積極的に示すことが重要視されることを意味していると思われる。また「ていただく」は,恩恵の受け手側からの表現であるため,与え手,つまり相手は言語化されなくともよい。事実は恩恵の与え手,或いは使役行為者でなくとも,「相手」として聞き手をその位置に想定することが可能なわけである。使役行為者よりも聞き手を強く意識する点て,「おかげさま」的発想との類似性が見られる。