著者
入江 さやか
出版者
同志社大学
雑誌
同志社大学留学生別科紀要 (ISSN:13469789)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.31-40, 2004-12

現代日本語において,実際に用いられている形容詞を選出し,その語幹の音韻構造について調査した。4冊の国語辞書のうち,3冊以上の辞書に掲載されている形容詞を選出すると,ク活用形容詞452語,シク活用形容詞272語,合計724語である。そのうちの和語650語について,出現位置別に音素分布表を作成し,和語3拍名詞と比較すると,語頭に現れる母音音素,子音音素は,和語3拍名詞,和語形容詞ともにほとんど同じであった。ただし,和語形容詞語幹末の母音音素は,著しく偏った音素分布を見せる。すなわち,和語2拍名詞の場合は,/i/のあと,/a/ /e/ /o/ /u/と続く。和語3拍名詞の場合は,/i/のあと,次に多いのは,/e/であり,続いて/a/ /o/ /u/という順になる。名詞の場合は,/i/ /e/で終わるものが多いと言える。それに対し,形容詞語幹の場合は,/a/が最も多く出現し,/i/ /e/はほとんど出現しない。
著者
石井 久雄
出版者
同志社大学
雑誌
同志社大学留学生別科紀要 (ISSN:13469789)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-16, 2004-12

刑法は,1995平成7年に「表記の平易化」として改正されるまで,文語であり,歴史的仮名遣い,カタカナ表記であった。その改正前刑法の条文について,カタカナがどのような語・形態を書き表しているか,しらべた。カタカナは,異なりが51,延べが7744で全文字の39.28%である。その全部を整理し,出現頻度がおおきい15字を中心として,つかわれかたを報告する。この15字で,カタカナの延べの90%にいたる。1位「ノ」は97.4%が格助詞「の」をしるしたものである。以下,2位「ハ」は,係助詞「は」45.0%,接続詞「又は」40.9%,「若しくは」12.6%,3位「ヲ」にすべてが格助詞「を」,4位「ニ」は,95.4%が格助詞「に」,5位「ル」は,動詞「あり」およびそこから派生した形容動詞・助動詞などの連体形語尾73.2%,動詞・助動詞連体形摩き19.6%,6位「シ」は,動詞「す」連用形66.5%,動詞四段活用連用形語尾20.0%,7位「タ」は,97.8%が助動詞完了「たり」,8位「ス」は, 92.6%が動詞「す」活用形をしるし,カタカナそれぞれに,おおむねひとつの語・形態に集中している。こうした大要は改正後刑法と同様である。しかし,改正後のひらがな「る」がやはり出現順位5位でありながら,靡き85.8%という集中をみせていたのと,改正前の「ル」はことなる,といった内容のちがいがみられる。
著者
石井 久雄
出版者
同志社大学
雑誌
同志社大学留学生別科紀要 (ISSN:13469789)
巻号頁・発行日
pp.3-16, 2001-12

現代の統制がとれた表記のもとでは,ひらがなは,表音文字であるにもかかわらず,特別の語・形態と関係することもあると予想される。それを確認すべく,2000年1年間の朝日新聞社説の全文にあたった。出現頻度がおおきいひらがな14字は,累積でひらがな延べ約398千字の73%,文字全体延べ約776千字の32%をしめる。その1/100を抽出して整理し,次の結果をえた。出現順位1位のひらがな「の」は82.4%が格助詞「の」を表し,以下,4位「に」は80.4%が格助詞「に」,5位「を」はすべてが格助詞「を」,7位「は」は95.9%が副助詞「は」,8位「た」は72.6%が助動詞「た」,10位「が」は90.1%が格助詞「が」,12位「て」は88.4%が接続助詞「て」を,それぞれ表している。文法的要素との関係がこいのが特徴的である。語・形態は,どのように設定するのが適切であるか,かなの観点からかんがえる必要もある。すなわち,語・形態の設定によって,次の結果もえられる。3位「る」はほとんどが動詞・助動詞活用語尾,その2/3は靡き,9位「と」は2/3が助詞,11位「し」は2/3以上が動詞の活用語尾,13位「で」ははとんどが文法的部分,その1/2は格助詞「で」を表す。特別の語・形態とはむすびつきがよわいものがある。2位「い」は1/5が補助動詞「いる」,2/5が形容詞系統活用語尾,6位「な」は1/3が形容詞・助動詞「ない」,1/4が形容動詞・助動詞「だ」活用語尾,14位「か」は1/4が助詞「から」,1/5が助詞「か」を,それぞれ表すが,他の語・形態はさらにすくない。
著者
平 弥悠紀
出版者
同志社大学
雑誌
同志社大学留学生別科紀要 (ISSN:13469789)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.17-29, 2004-12

天沼寧編『擬音語・擬態語辞典』(1974〔昭和49〕年,東京堂出版)に収録されている音象徴語を,A型,AB型,AR型の三つに分けて,擬態語がどのようなタイプの語に多く用いられているのかを擬音語と比較した。型別に見ると,A型は音象徴語全体の中でも少数である上に,特に擬態語は少ない。A型の中では,擬態語では「Aッ」,擬音語では「AーAー」タイプが最も多かった。AB型では,「ABAB」タイプは,擬態語,擬音語ともに最も多く用いられている。特徴的であるのは「AッBリ,AンBリ」タイプの語で,擬態語としての用法がほとんどであった。AR型においても,擬態語,擬音語ともに。「ARAR」タイプが一番多かった。AR型で特徴的なのは,「リ」の添加されたタイプはほとんどが擬態語として用いられており,擬音語としてはあまり見られないことである。全ての擬態語,擬音語について見ると,擬態語としても擬音語としても1位は「ABAB」タイプで,4位に「ARAR」タイプが入っている。2拍語基の重複型は,擬態語,擬音語を問わず,全ての音象徴語の代表的なタイプであると言える。擬態語の上位にA型のタイプは少なく,一方,擬音語では6位から10位はすべてA型である。擬態語の第3位の「AッBリ」,8位の「ARリ」は,擬音語としてはほとんど用いられていなかった。また,語末の音については,「リ」は擬態語に多く,撥音は擬音語に多く見られた。用例数は少ないが,引き音節についても,擬態語に少なく,擬音語に多かった。
著者
脇田 里子
出版者
同志社大学
雑誌
同志社大学留学生別科紀要 (ISSN:13469789)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.117-129, 2005-12

同志社大学では多岐にわたる留学生支援策を講じている。2004年度秋学期より留学生別科の今出川キャンパスヘの移転を機に,「留学生別科生と日本人学生の交流会」を催し始めた。交流会を開くことにした経緯と意義を示し,開催の手続き,会の実施について述べる。交流会の内容は,前半が有志学生によるスピーチやプレゼンテーションなどの発表,後半が参加者全員の交流である。各回とも交流会は盛況であったが,改善すべき点も残る。交流会の課題のひとつは,別科生の参加者数が伸び悩んでいることである。交流会に参加して楽しかった,また,交流会に参加したいと思われるように,交流内容については検討の余地がある。例えば,発表と全体交流の時間配分は,全体交流の時間をもっと確保するよう努めたい。そこで,発表内容はより気楽に楽しめるものへと変更を試みている。また,発表の機会を日本人学生にも与えて,別科生にメッセージを発信してもらうことを続けたい。さらに,国際センターラウンジの積極的な活用による日常的な交流の促進と,将来,学生主体による交流会の実施を期待したい。今後も交流会が日本人学生と別科生の交流のきっかけの一つになってほしい。
著者
神田 靖子 Yasuko Kanda
出版者
同志社大学留学生別科
雑誌
同志社大学留学生別科紀要 = Bulletin of Center for Japanese Language Doshisha University (ISSN:13469789)
巻号頁・発行日
no.1, pp.77-91, 2001-12-25

これまでの研究において「のだ」は「認識モダリティ」を表すという説が一般的であった。しかし,泉子・K・メイナード(2000)は「のだ」には「情意」を表す機能があることを指摘しており,彼女の言う「情意」とはモダリティの側面からいえば「発話・伝達モダリティ」に属するものである。なぜ「のだ」に二つのモダリティが認められるのであろうか。本稿はこのようなモダリティの食い違いは「のだ」に二種の機能があることに原因すると見て,「主観的論理の「のだ」」と「情意の「のだ」」があることを示す。そして,とりわけ後者が話し手の発話伝達における心的態度を直接的に表現するものとして,その語用論的機能を観察する。
著者
工藤 陽子
出版者
同志社大学
雑誌
同志社大学留学生別科紀要 (ISSN:13469789)
巻号頁・発行日
pp.47-61, 2001-12

これまでに同志社大学留学生別科でメインテキストとして使用されたことのある日本語教科書を,初級,中級,上級とレベルごとに2種類ずつ選び,その中に見られる外来語について若干の考察を試みた。その結果,初級のテキストと中級のテキストとでは,そこに見られる外来語中の基本外来語の占める割合にはあまり差はなく,上級のテキストになると,基本外来語の占める割合がかなり低くなり,動詞慣用句や,動詞との共起の点て注意すべきものも多く見られることがわかった。その一方で,上級のテキストにおいても,実際の日常会話などでよく耳にする外来語系ナ形容詞についてはほとんど見られず,こうした語をどのような形で授業の中で取り上げていくかを考えることも,今後の課題の一つである。
著者
入江 さやか Sayaka Irie
出版者
同志社大学留学生別科
雑誌
同志社大学留学生別科紀要 = Bulletin of Center for Japanese Language Doshisha University (ISSN:13469789)
巻号頁・発行日
no.4, pp.31-40, 2004-12-25

現代日本語において,実際に用いられている形容詞を選出し,その語幹の音韻構造について調査した。4冊の国語辞書のうち,3冊以上の辞書に掲載されている形容詞を選出すると,ク活用形容詞452語,シク活用形容詞272語,合計724語である。そのうちの和語650語について,出現位置別に音素分布表を作成し,和語3拍名詞と比較すると,語頭に現れる母音音素,子音音素は,和語3拍名詞,和語形容詞ともにほとんど同じであった。ただし,和語形容詞語幹末の母音音素は,著しく偏った音素分布を見せる。すなわち,和語2拍名詞の場合は,/i/のあと,/a/ /e/ /o/ /u/と続く。和語3拍名詞の場合は,/i/のあと,次に多いのは,/e/であり,続いて/a/ /o/ /u/という順になる。名詞の場合は,/i/ /e/で終わるものが多いと言える。それに対し,形容詞語幹の場合は,/a/が最も多く出現し,/i/ /e/はほとんど出現しない。
著者
米澤 昌子
出版者
同志社大学
雑誌
同志社大学留学生別科紀要 (ISSN:13469789)
巻号頁・発行日
pp.105-117, 2001-12

使役形+「ていただく」の本来の用法は,相手の使役行為により被使役行為者(多くが話し手)が行為を行うことを意味する。しかし,近年,「全国どこへでもお届けさせていただきます」「もう数十年勤めさせていただいております」のように,明確な使役行為が見られない場面でも頻用される。このような拡大用法について,本稿ではドラマ等のシナリオを会話資料とし,「〜(さ)せていただく」の待遇表現性を中心に語の使用状況から使役形+受給補助動詞の考察を行った。その結果「〜(さ)せていただく」の拡大用法は,A話し手の行為の申し出,B話し手の行為遂行宣言,C話し手の自分本位的な被使役行為者としての認識,の三つに分類できることが分かった。またこの表現は近現代に発生・定着したものと思われる。使役形を伴う「ていただく」は,語の性格上相手に許可される,許されることを表現する。この表現の頻用は,相手との関わりを許可されるという形で表現することで,丁寧さを重んじていることを積極的に示すことが重要視されることを意味していると思われる。また「ていただく」は,恩恵の受け手側からの表現であるため,与え手,つまり相手は言語化されなくともよい。事実は恩恵の与え手,或いは使役行為者でなくとも,「相手」として聞き手をその位置に想定することが可能なわけである。使役行為者よりも聞き手を強く意識する点て,「おかげさま」的発想との類似性が見られる。
著者
山口 育子
出版者
同志社大学留学生別科
雑誌
同志社大学留学生別科紀要 (ISSN:13469789)
巻号頁・発行日
no.5, pp.105-116, 2005-12

「ニュース抄録」は,前週一週間のニュースを「政治」「国際」「経済」「社会」の分野別に,要約したものである。選んだ記事に番号を振り,別紙に,難解語句の読み,連語,反意語などを記して毎回配布した。授業では,この別紙の該当部分を範読した後,斉読し,記事を一人が読み上げるという形を繰り返して読み進んだ。適宜,自由意見交換を織り交ぜた。全体を通した資料と,記事に即した資料とを準備し配布して,授業に取り入れた。世界地図と日本地図で,場所を示して確認させた。副教材として,新聞記事に頻出する語句を選定し,ルビを付した一覧表を分野別に作成した。これを適宜,授業の中に組み入れた。学期開始の2回目から,授業の前半に「ニュース抄録」を,後半に「学生が選んだ記事」を読む,という二本立ての形態にした。学生二人を担当者にあてて,キー・ワードを5つ書き添えた記事を事前に提出させた。授業では担当者が選んだ理由を述べた後,読み上げ,読後に質疑応答を設けた。毎回「記事に対する感想,疑問,意見」シートを宿題にして提出させた。文法チェックとコメント付記して返却し,個別の問題意識に対応した。学生は国際情勢や日本の社会問題に関心をもっている。記事がクラスの皆で考える素材となり,感想や疑問などの発言にも多彩な展開が見られた。実践報告(Practice Report)
著者
松本 秀輔
出版者
同志社大学
雑誌
同志社大学留学生別科紀要 (ISSN:13469789)
巻号頁・発行日
pp.93-104, 2001-12

本稿では,受動文において動作主をニ格で示すことについて,カラに置き換えられるような格助詞ニの働きとはどのようなものか,という疑問から考察を進めた。その中で,「母親は息子に牛乳を飲ませた」のような使役文・「太郎は先生にほめてもらった」のようなテモラウによる受益文・「彼の仕事ぶりに満足している」「突然鳴ったベルに驚いた」といった一部の自動詞述語文の,それぞれに用いられる格助詞ニとの共通性について論じた。また,「本が猫にいたずらされた」のような無生物主語の受動文ではニ格動作主が現れにくいという事実について,主語とニ格名詞句の関係や表現者の視点という側面から論じた。その結果,受動文においてもニ格名詞句が表すのはガ格名詞句(主語)の側から見た対象と呼ぶのがふさわしく,そのため,動作の受け手を主語として事象の中心に据えて表現する受動文では,無生物主語の側を視点の中心,有生物動作主をその対象,とすることが相対的に困難なためにニ受動文が成立しにくいのだと考えられた。そして,受動文においてニ格で表されるものが主語に対する働きかけの主であることから,カラに置き換えられるような起点の意味が生まれることを述べた。
著者
平 弥悠紀
出版者
同志社大学
雑誌
同志社大学留学生別科紀要 (ISSN:13469789)
巻号頁・発行日
pp.31-45, 2001-12

音象徴語をA型(1拍語基の語),AB型(2拍語基で,第2拍がラ行音以外の語),AR型(2拍語基で,第2拍がラ行音の語)の三つに分けて,擬音語がどのようなタイプの語に多く用いられているのかを調査した。型別では,擬音語としての用法をもつ語の割合はA型に多く,AR型には比較的少ない。それぞれの型においても,A型では「Aー,Aッ,Aン」,「AーAー,AッAッ,AンAン」タイプに,擬音語としての用法をもつ語が多く含まれているが,特に,引き音節の「Aー,AーAー」タイプのものに集中していた。AB型の語では,「ABリ」には擬音語として用いられる語があるにもかかわらず,「AッBリ,AンBリ」にはほとんどない。AR型では,語基に「リ」の添加された形の「ARリ,ARリARリ」等にはあまり擬音語として用いられる語はなく。「リ」の添加されない「ARAR,ARARッ」等が擬音語としての用法をもっていた。AB型,AR型では「リ」が添加されているか否かで,擬音語として用いられる語の分布に偏りが見られた。また,擬音語を意味分野別にみると,「動物・人の声」の擬音語,声を発するという行為に近い「吐く,吹く,吸う,呼吸する」ことを表す擬音語はA型に多かった。しかし,同様に口を使って行う行為でも「噛み砕く」はAR型,「飲み込む」はAB型の語に集中しており,意味分野によって,用いられる語のタイプに偏りがあることがわかった。
著者
平 弥悠紀
出版者
同志社大学
雑誌
同志社大学留学生別科紀要 (ISSN:13469789)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-15, 2005-12

天沼寧編『擬音語・擬態語辞典』(1974〔昭和49〕年,東京堂出版)に収録されている音象徴語のうち,XYXYタイプ(AB型の「ABAB」,AR型の「ARAR」,A型の「AーAー,AッAッ,AンAン」)の擬音語について調査した結果,以下のことが明らかになった。AB型の語基の子音は,第1音節は「p・b・h・k・g・t・d・s・z」に,第2音節は「p・b・h・k・g・t・d・s」に集中しており,AR型,A型も第1音節はAB型と同様であった。また,どの型においても「m・n・w・j・r・φ」はわずかであった。擬音語は,「声」と「音」に二分でき,更に,「音」は,「動作に関わる音」,「無生物が発する音」,「物と物とが作用して生じる音」に分けることができる。「生物が発する声」と「無生物が発する音」にはA型の語が多く,「物と物とが作用して生じる音」には,AB型の語が多く見られた。圧力が加わって音が出るという点で,「動作に関わる音」の「噛む・齧る」は,「物と物とが作用して生じる音」の「引っ掻く・削る」等と共通しており,これらはAR型の「AリAリ」の形が圧倒的であった。「物と物とが作用して生じる音」でも,「触れ合う」,「打ち当たる」等にはAB型が多かった。また,第1音節を同じくする語の中には,「ARAR」は「震える音」,「AンAン」は「響く音」,「AッAッ」は「短い音」,「AーAー」は「継続する音」といったニュアンスが感じられるものもある。AR型の語は,従来の研究ではAB型として扱われてきたが,A型のバリエーションというとらえ方をすることも可能な語もあり,今後更に検討を加える必要があると考える。擬態語との比較も課題である。