著者
小林 祐太 中井 雄一朗 木勢 峰之 矢口 悦子 米田 香 古河 浩 寺岡 彩那 山﨑 敦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0658, 2012

【はじめに、目的】 股関節疾患患者において、バランス能力低下により立位や歩行での動揺の増大がよくみられる。不安定板上立位での姿勢制御の反復練習にて、より高い姿勢制御能力が獲得される可能性があるとした報告はあるものの、立位や歩行にどのように影響するかの報告は少ない。そこで本研究では、股関節疾患患者に対し不安定な支持面での立位バランス練習にて、実施前後での即時的な重心動揺や歩行の変化について検討する。【方法】 対象者は当院整形外科受診の前期股関節症1名と、変性疾患・外傷により手術治療 (人工股関節全置換術2名、ハンソンピン1名、γ-nail1名)を施行した4名を対象とした。性別は、男性3名、女性2名、年齢67.5±9.1歳とした。立位バランス練習には、株式会社LPNのハーフストレッチポール(以下HSP)を使用した。HSPは平面側を床側にして、規定した幅(身長×0.40÷2)で横向きに並ぶように前後に1つずつ設置した。その上に片脚ずつ均等な荷重で乗せて歩隔は肩幅として立位をとり、5秒保持した後に、15秒休息をとった。次に脚を前後逆にして同様に行い、これを1セットとして、計5セット行った。この運動前後に、小型三次元加速度計(ユニメック社)を第3腰椎の高さに固定し、自由歩行の加速度を計測した。また、フットスイッチを踵部に装着して踵接地を同定した。サンプリング周波数は200Hzとし、アナログ解析ソフトWAS(ユニメック社)にて9Hzのローパスフィルターで処理し、二乗平方根値を歩行速度の二乗値で除した値(以下RMS)を加え前後・側方・垂直成分にて解析した。さらに、定常歩行から得られた患側踵接地からの1歩行周期の加速度波形に対して自己相関係数(以下ACC)の前後・側方・垂直成分を算出した。また、患側上後腸骨棘、大転子、大腿骨外側上顆の3点にマーカーをつけ、加速度測定時の歩行をデジタルカメラで撮影し、ICpro-2DdA(ヒューテック株式会社)にて歩行時の3点間の角度を算出した。この結果を静止立位時と比較して、患側立脚後期の股関節最大伸展角度を算出した。さらに、重心動揺計(ユニメック社)を使用し、運動前後の重心動揺を計測した。開眼・自然立位にて20秒間の測定を行った。指標として、前後・側方方向単位軌跡長を用いた。各々の値は2回の測定結果の平均値を用い、その結果を基に中央値と四分位範囲で表し運動前後を比較した。統計処理にはPASW Statistics 18を用いてWilcoxon signed-rank testを行い、5%未満を統計学的有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には本研究の目的、内容、個人情報取り扱いについて口頭および書面にて説明し、同意書への署名により同意を得た。また、本研究は当院倫理委員会の承諾を得て行った。【結果】 各項目は運動前→運動後の順に中央値(四分位範囲)で示す。RMSは前後成分0.15(0.08)→0.16(0.17)、側方成分0.14(0.07)→0.14(0.07)、垂直成分0.22(0.12)→0.12(0.12)であったが、有意差は見られなかった。ACCは前後成分0.85(0.15)→0.88(0.07)、側方成分0.67(0.28)→0.76(0.11)、垂直成分0.66(0.17)→0.89(0.11)と3方向において増加が見られ、側方成分には有意な増加が見られた。 重心動揺は前後方向単位軌跡長(mm/s)が9.55 (3.30)→6.70 (4.35)、側方方向単位軌跡長(mm/s)が4.45 (1.85)→4.60 (1.25)と前後は減少が見られ、側方は増加が見られたが有意差は見られなかった。股関節伸展角度(°)は-0.72(2.75)→-5.24(5.76) と有意な減少が見られた。【考察】 不安定な支持面での立位姿勢保持には、効果的に足関節トルクを用いることができず、股関節による制御が行われるといった報告がみられる。今回HSP上で不安定な立位状況を設定することで、股関節による制御が促通されることを仮説として本研究を実施した。今回の結果から、股関節での制御が促通され、歩行時の側方の規則性において有意に改善させた可能性が示唆される。側方の姿勢制御は、足関節に対して股関節が優位とされていることから上記の結果に繋がったと推察される。一方、歩行時の前後方向への動揺性の増加は、立脚後期の股関節伸展角度減少による推進力低下を体幹などで代償した結果、前後方向の動揺性の増加に起因したのではないかと考えられる。今後は、運動時中の筋電図測定なども行い、姿勢制御戦略に影響を与えている因子を検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究の運動が、即時効果として立位や歩行時に影響を与えることが確認できた。不安定な支持面で姿勢制御戦略を促通させることは、股関節疾患患者の歩行効率の改善に有効であることが示唆される。
著者
矢口 悦子 木勢 峰之 米田 香 山﨑 敦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1081, 2011

【目的】<BR> ファッションとしてハイヒール靴を履く女性が多くみられる.しかし,足の痛みや腰痛を訴える者も多く,ハイヒールが身体に与える影響について様々な報告がされている.その中で体幹に関しては,腰椎の過剰な前彎が生じる,脊柱のアライメントに変化はないなど一定の見解が得られていない.また,ヒールの高さの違いによる体幹への影響を検討した研究は少ない.そこで本研究では,異なるヒール高にて体幹筋活動とアライメントの変化を検討したため報告する.<BR>【方法】<BR> 本研究では,健常成人女性8名(年齢22.5±1.9歳,身長160.4±3.2cm,体重52.9±2.5kg)を対象とした.計測課題は, 3,5,7cmのハイヒール靴を装用した静止立位の3条件とした.靴は同一形状の物を使用し,24.5cmのサイズとした.また,比較として裸足での計測も合わせて行った.安静立位で,2m前方の目線の高さの印を注視させ,各条件で3回ずつ計測を行った.<BR> 計測ではフォースプレート(zebris社製 FDM1.5)にて足圧中心(以下,COP)を求め,踵骨後縁からの距離を算出した.アライメントの計測には,超音波動作解析装置(zebris社製CMS-20S)を用いた.受信機を被験者の背側に設置し,指標として左側の耳垂,肩峰,第7頚椎~第3仙椎棘突起,上前腸骨棘,上後腸骨棘,大転子,膝関節前面,外果を触診し,ポインターにてマーキングを行った.ソフトウェアにはZebris WinSpineを使用し,各指標の空間座標を計測した.ここで得られた座標から,胸椎後彎角,腰椎前彎角,骨盤前方傾斜角を求め,脊柱を除く各指標に対し,外果を基準とした矢状面上での移動距離を算出した.COP,アライメントではそれぞれ3回の平均値を求めた後,裸足と各条件の変化量を算出した.また,筋活動の計測には表面筋電図計TELEMYO2400R(NORAXON社製)を用い,電極を左側の外腹斜筋,内腹斜筋,胸・腰部脊柱起立筋,腰部多裂筋に貼付した.3秒間の安定姿勢における筋活動を1,500Hzでサンプリングした後に平滑整流化し,裸足時の筋活動で正規化し%IEMGを算出した.統計処理にはPASW Statistics 18を用い,各項目に対して有意水準5%未満にて反復測定による一元配置分散分析を用いた後,Tukey法による多重比較を行った.<BR>【説明と同意】<BR> ヘルシンキ宣言に基づき対象者には十分な説明を行い,同意を得た上で計測を行った.<BR>【結果】<BR> ヒール高3,5,7cmの順にて結果を記す.COP変化量(1.2mm,2.0mm,2.3mm)では3,7cm間にて有意に前方移動が認められた(p<0.05).胸椎後彎角,腰椎前彎角,骨盤前方傾斜角ではいずれも有意差は認められなかった.アライメント指標では有意差は認められなかったが,全指標とも裸足時より前方へ移動する傾向がみられた.%IEMGでは,全ての筋において有意差は認められなかったが,胸部脊柱起立筋(143.8%,129.7%,130.2%),腰部脊柱起立筋(116.2%,113.6%,115.4%),腰部多裂筋(184.2%,140.9%,172.9%)では,裸足と比較すると増加傾向がみられた.<BR>【考察】<BR> ヒール高が増加し足関節が底屈することにより,前足部への荷重圧が増加すると報告されており,COP変化量では先行研究を支持する結果となった.この変化に伴い,アライメントの全指標が裸足と比較し,前方へ移動する傾向がみられている.また,筋電図においても腰背部筋の%IEMGでは,裸足と比較しハイヒール靴にて増加傾向がみられているため,前方移動に対する姿勢制御に関与していると考えられる.しかし,胸腰椎角,骨盤前方傾斜角において有意な変化は認められず,脊柱での姿勢制御では個人差が大きく,個人で制御様式が異なることが推察された. <BR> 今回,ヒール高による筋活動,アライメントの差は認められなかったが,ハイヒール装用時の腰背部筋の過活動が,腰痛を発症させる一つの要因となるのではないかと考えられた.今後,裸足時のアライメントやハイヒール靴装用時の腰痛の有無を考慮し,群分けをするなど再考した上で,さらに被験者数を増やし検討していく必要がある.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今後,ハイヒール靴が体幹に及ぼす影響について検討を継続していくことで,ハイヒール靴装用者に対する指導や腰痛予防のための一助になると考える.<BR>