著者
細川 淳一 田神 一美
出版者
筑波大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

競技スポーツ選手として、思春期から成人に至るまで激しい運動を続けてきたことが、その後の健康状態にどのような影響を及ぼすかを衛生学的観点より研究した。競技スポーツ選手は、現役引退に際して永続的な運動量減少を体験する。この時期の一般人は、成人病リスクが高まり運動を推奨されるが、この時期に運動量を低下させる競技スポーツ選手の場合、その後の健康にマイナスの要因となっているか否かを動物実験モデルにより細胞性免疫機能の一つであるナチュラル・キラー細胞の活性を指標として検討した。水泳運動中止13週間後では、対照群との間に細胞性免疫能に明かな違いは認められなかった。つまり、運動の有無にかかわらず、健康な状況下では細胞性免疫機能に検出可能な差異は現れないと考えられる。そこで、免疫抑制剤(シクロスポリン)を投与し、この負荷に対する耐性をナチュラルキラー細胞の活性を指標として測定することにした。運動トレーニングとして、ラットに穏やかな流水遊泳(30分/日、4回/週)を17週間(7週齢から24週齢まで)負荷した。負荷中止後9日目に50mg/kgのシクロスポリンを腹腔投与し、10日目にネンブタール麻酔下に開腹して無菌的に脾臓を摘出、ホモジナイズした後、これをコンレー・フィコル液に重層して比重遠心分離する方法で白血球を得た。この白血球と^<51>CrでラベルしたK562細胞とを混ぜ合わせて4時間培養し、この間に破壊された標的細胞から培地中に流出した^<51>Crをガンマー線カウントする方法で測定した。比較は運動負荷を行なっていない対照群との間で行なった。この結果、運動はナチュラル・キラー細胞に対する免疫抑制剤の作用を緩和することが分かった。この作用を通じて運動は、腫瘍などの成人病から防護していることを示唆するものと考えられる。