著者
秋山 秋梅 細木 彩夏 松井 亜子 橋口 一成 野村 崇治 近藤 隆
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.65, 2008 (Released:2008-10-15)

電離放射線の生体分子に対する作用は、主に、周辺の水分子の放射線分解によって生成する活性酸素(O2-、H2O2、•OH)を介した反応によって起こる。この場合、それらの活性酸素がDNA、タンパク質、脂質などと反応し、それらを非特異的に酸化する。したがって、放射線照射によって生じる活性酸素を迅速かつ効率よく消去できれば、放射線による細胞の障害は軽減できると考えられる。本研究の目的は、活性酸素を消去する酵素、superoxide dismutase(SOD)および細胞の酸化還元状態を維持する酵素、thioredoxinやglutaredoxinの細胞内での高発現によって細胞の放射線感受性を軽減(防護)すること、およびその機構を明らかにすることである。まず、ヒトのSOD遺伝子をcloningして、HeLa S3細胞にtransfectionし、安定した高発現細胞株を作成した。これらの細胞を用いて、放射線に対する細胞の感受性と応答について検討した。細胞質に存在するSOD1(Cu/Zn-SOD)の高発現細胞株は HeLa S3 と同程度の感受性を示したが、mitochondriaに局在するSOD2(Mn-SOD)の高発現株は HeLa S3 細胞より放射線抵抗性を示した。SOD1、SOD2 の高発現によって放射線照射24 時間後の細胞内の酸化ストレスレベルは HeLa S3 より抑制された。SOD2による放射線防護の機構は、生成した活性酸素の効率的な消去による細胞内の酸化防御と細胞応答の制御によるものの二つが考えられる。事実、SOD2高発現株では、放射線apoptosisの抑制や特定の遺伝子発現の誘導など興味深い現象が観察された。さらに、SOD2の高発現によって、核DNAにも損傷の減少が起こり、放射線に対する細胞の応答の複雑で巧妙なネットワークが存在することが分かった。