著者
山田 美智子 笠置 文善 三森 康世 宮地 隆史 大下 智彦 佐々木 英夫
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.267, 2008 (Released:2008-10-15)

背景と目的:胎児期に被爆した被爆者では小頭症や知的障害等の神経系への影響が認められる。今回、広島成人健康調査集団の被爆時年齢13歳以上の原爆被爆者とその対照において、原爆被爆が認知機能や認知症の発症に影響したか否かについて調査した。 方法:対象者は1992年の調査開始時に年齢60歳以上で認知症を認めない2286人である。認知機能は認知機能スクリーニング検査(CASI)を用いて評価した。認知症の診断は認知機能スクリーニング検査と神経内科医による神経学的検査の2段階法を用い、人年法により線量階級別の粗発症率を求めた。原爆被曝の認知症発症への影響の評価には他のリスク要因を考慮してポワソン回帰分析を用いた。放射線治療による被曝情報は病院調査と問診調査から得られた。 結果:認知機能は加齢と共に低下し、低学歴で低かったが、被爆時年齢13歳以上の原爆被爆者では認知機能に被爆の影響は認められなかった。約6年の追跡期間中に206人が新規に認知症を発症した。60歳以上の1000人年あたりの粗認知症発症率は15.3(男性12.0、女性16.6)であった。被爆線量別の1000人年あたりの発症率は被爆線量5mGy以下、5-499mGy,500mGy以上で各々16.3、17.0、15.2であった。いずれの被爆線量群でもアルツハイマー病が優位な認知症のタイプであった。ポワソン回帰分析の結果、全認知症ならびにタイプ別認知症において、他のリスク要因を調整後に被爆の影響は認められなかった。対象者の内、68人がこの調査以前に放射線治療を受けていたが、認知症を発症したのは2人にすぎなかった。 結論:原爆被爆者の縦断的調査において認知機能ならびに認知症発症と放射線被曝の関連は認められなかった。
著者
田内 広 井上 昌尚 大原 麻希 須坂 壮 松本 英悟 小松 賢志 立花 章
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.194, 2008 (Released:2008-10-15)

低線量率・低線量被曝による生物学的影響は、実験的裏付けが少ないために、放射線防護では高線量被曝データの直接的外挿から推定されているのが現状である。また、高LET放射線による体細胞突然変異では逆線量率効果といった特異な現象も報告されており、低線量率放射線被曝の生物影響解明は、科学的根拠に基づく放射線リスク評価のための重要課題でもある。我々は、トリチウムβ線による生物影響が低線量・低線量率でどのようになるのかを実験的に解明するために、体細胞突然変異の高感度検出系を開発し、低線量率のトリチウムβ線照射によるHprt欠損突然変異誘発を解析している。この突然変異高感度検出系は、Hprt遺伝子を欠失したハムスター細胞に正常ヒトX染色体を導入した細胞を用いており、従来の50~100倍の頻度で突然変異が誘発され、0.2GyのX線でも明らかな突然変異頻度上昇を検出できる。本研究ではトリチウム水(HTO)を培養液に添加し、線量率0.13~2.3cGy/hの範囲で0.3Gyの照射を行って突然変異誘発効果を解析した。その結果、中性子で逆線量率効果が認められる0.2cGy/h以下の線量率においても、誘発突然変異頻度の明らかな増加は認められなかったので、トリチウムβ線では、少なくとも0.13cGy/hまでは逆線量率効果は生じないことが示唆された。現在、さらに低い線量・線量率での実験を行っており、その結果を合わせて発表する予定である。また、得られた変異体クローンのヒトX染色体に起こった欠失範囲の解析により、低線量・低線量率では突然変異スペクトルが自然発生のスペクトルに近づくことが示唆された。
著者
秋山 秋梅 細木 彩夏 松井 亜子 橋口 一成 野村 崇治 近藤 隆
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.65, 2008 (Released:2008-10-15)

電離放射線の生体分子に対する作用は、主に、周辺の水分子の放射線分解によって生成する活性酸素(O2-、H2O2、•OH)を介した反応によって起こる。この場合、それらの活性酸素がDNA、タンパク質、脂質などと反応し、それらを非特異的に酸化する。したがって、放射線照射によって生じる活性酸素を迅速かつ効率よく消去できれば、放射線による細胞の障害は軽減できると考えられる。本研究の目的は、活性酸素を消去する酵素、superoxide dismutase(SOD)および細胞の酸化還元状態を維持する酵素、thioredoxinやglutaredoxinの細胞内での高発現によって細胞の放射線感受性を軽減(防護)すること、およびその機構を明らかにすることである。まず、ヒトのSOD遺伝子をcloningして、HeLa S3細胞にtransfectionし、安定した高発現細胞株を作成した。これらの細胞を用いて、放射線に対する細胞の感受性と応答について検討した。細胞質に存在するSOD1(Cu/Zn-SOD)の高発現細胞株は HeLa S3 と同程度の感受性を示したが、mitochondriaに局在するSOD2(Mn-SOD)の高発現株は HeLa S3 細胞より放射線抵抗性を示した。SOD1、SOD2 の高発現によって放射線照射24 時間後の細胞内の酸化ストレスレベルは HeLa S3 より抑制された。SOD2による放射線防護の機構は、生成した活性酸素の効率的な消去による細胞内の酸化防御と細胞応答の制御によるものの二つが考えられる。事実、SOD2高発現株では、放射線apoptosisの抑制や特定の遺伝子発現の誘導など興味深い現象が観察された。さらに、SOD2の高発現によって、核DNAにも損傷の減少が起こり、放射線に対する細胞の応答の複雑で巧妙なネットワークが存在することが分かった。
著者
菓子野 元郎 漆原 あゆみ 児玉 靖司 小林 純也 劉 勇 鈴木 実 増永 慎一郎 木梨 友子 渡邉 正己 小野 公二
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.209, 2008 (Released:2008-10-15)

我々は、DMSOによる放射線防護効果が、放射線による間接作用の抑制ではなく、DNA-PK依存的なDNA二重鎖切断修復の活性化によりもたらされているという仮説の検証を行った。細胞は、マウス由来細胞のCB09、及びそのDNA-PKcsを欠損するSD01を用いた。DMSOの濃度は、1時間処理しても細胞毒性がなく、放射線防護効果が大きく現れる2% (256 mM)とした。DMSO処理のタイミングは、照射前から1時間とし、照射直後にDMSOを除いた。放射線防護効果については、コロニー形成法による生存率試験及び微小核試験法を用いて調べた。DMSO処理細胞により放射線防護効果が現れることが、CB09細胞の生存率試験により分かった。微小核試験においても、同処理により、微小核保持細胞頻度が有意に抑制された。これに対して、DNA-PKcs欠損細胞(SD01)では、同処理による放射線防護効果がほとんど見られなかった。DNA-PKの有無がDMSOによる防護効果の機構に関わる可能性が考えられるので、照射15分後から2時間後までDNA二重鎖切断修復の効率を解析した。その結果、DNA二重鎖切断部位を反映すると考えられる53BP1のフォーカスの数は、照射15分後ではDMSO処理により約10%減っていた。これに対し、照射2時間後ではDMSO処理により約30%のフォーカス数の減少が見られ、照射15分後よりも2時間後に残存するDNA二重鎖切断の方が、DMSO処理により大きく軽減されることが分かった。これらの結果は、放射線照射により誘発されたDNA二重鎖切断生成がDMSOにより抑制されるわけではなく、照射直後からスタートするDNA-PKcsに依存したDNA二重鎖切断修復機構がDMSOの照射前処理により効率よく行われている可能性を示唆している。
著者
馬田 敏幸 法村 俊之
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.202, 2008 (Released:2008-10-15)

p53野生型マウスにトリチウム水一回投与によるβ線照射、あるいはセシウム-137γ線をシミュレーション照射法(トリチウムの実効半減期に従って線量率を連続的に減少させながら照射)により3Gyの 全身照射を行ったとき、T細胞のTCR遺伝子の突然変異誘発率は、γ線では上昇しなかったがトリチウムβ線では有意に上昇した。この差異の原因がp53の活性量の違いにあるのかを明らかにするために、次の実験を行った。8週齢のC57BL/6Nマウスの腹腔内に、270MBqのトリチウム水を注射し19日間飼育した。この間にマウスは低線量率で3Gyの被ばくを受けることになる。γ線はシミュレーション照射法で7日間照射し、その後12日間飼育した。飼育最終日にマウスに3Gy(0.86 Gy/min)照射し、4時間後に脾臓を摘出しT細胞分離用とアポトーシス解析のためのタネル法の試料とした。ウェスタンブロット法によりp53の発現量とリン酸化p53の存在量を比較した。p53の活性量とアポトーシス活性を現在解析中であり、突然変異の除去機構について考察を行う。