著者
天野 正道 田中 啓幹 高田 元敬 森永 修 三宅 清 木下 博之 絹川 敬吾 別所 敞子 松本 明
出版者
社団法人 日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雑誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.79, no.5, pp.832-840, 1988-05-20 (Released:2010-07-23)
参考文献数
21

急性精巣上体炎の原因微生物として Chlamydia trachomatis (C. trachomatis) の占める割合を明らかにするために自験例42例 (平均年齢35.8歳) を対象に尿道よりのC. trachomatis の検出と血清抗体価測定を実施し以下の成績をえた. 1) C. trachomatisは18例中6例 (33.3%) より検出され, 血清抗体価を全例で測定しその陽性率は, IgM 19.0%, IgA 38.1%, IgG 66.7%であった. 年代別では抗原, 抗体共に年代が低いほど, 陽性率が高い傾向を認めた. 2) 各抗体価の経時的推移を7例につき最長4カ月観察した. 4倍以上の推移をみた症例数は, IgM 2例, IgA 1例, IgG 3例で, いずれかの抗体価が4倍以上の推移を示したのは7例中4例であった. 3) C. trachomatis が検出された6例の平均年齢は23.0歳 (18~31歳), 血清抗体価陽性症例はIgM 2例, IgAとIgGは全例であった. 膿尿は5例で認め, 一般細菌培養では検討した4例で起炎菌と推察される細菌は証明されなかった. 4) 急性精巣上体炎中C. trachomatis 感染症の占める割合を検討した. C. trachomatis 検出症例は6例, IgM抗体価陽性症例は7例, IgA抗体価陽性症例は5例, 以上18例はC. trachomatis 感染症と診断され全症例の42.9%に相当した. 著者らの検討ではIgG抗体価陽性症例中約80%が最近の感染による抗体価上昇と考えられ, それらを加えると44例中28例 (66.7%) がC. trachomatis 感染症と推察された. 若年者 (35歳以下) の本症ではC. trachomatisによるSTDとして捕え, 対処すべきとの考えを支持する成績であった.