著者
綾木 歳一
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

放射線DNA損傷の修復と突然変異生成の関係を明らかにするため,キイロショウジョウバエの複製後修復欠損株(meiー41^<D5>)に白眼座の2.9kbDNA片重複による象牙色眼色変異(W^i)の4重複変異株〔(W^i)_4〕を導入し,4重複したW^iのうちのどれか1つでの2.9kbDNA片の欠失によるW^i眼色から野生型赤色眼色への復帰突然変異を指標に,核分裂中性子およびγ線の遺伝子誘発作用をDNA修復能との関係で比較検討した。3令初期雄幼虫に広島大学原医研設置の ^<252>Cfおよび ^<60>Co線源からの放射線0〜1Gyを照射し,幼虫の眼成虫原基細胞におけるW^i遺伝子での2.9kbDNA片の欠失細胞のクロ-ンを成虫W^i眼中の赤色スポットとして検出した。使用したハエ株のDNA修復能,放射線の違いによらず得られた線量ー効果関係は直線的であった。単位線量(CGg)当り,個体当りのγ線誘発率は修復能正常株で5.7×10^<ー2>,欠損株で2.3×10^<ー2>, ^<252>Cf放射線中の中性子の混在比(67%)で補正した核分裂中性子の誘発率は同様に修復正常株6.1×10^<ー2>,欠損株3.1×10^<ー2>となり,両放射線で修復欠損株での誘発率は正常株のそれの約半分に低下した。検出した型の突然変異生成にはmeiー41に代表される複製後修復後が正常である事が重要である。またDNA修復正常株,複製後修復欠損meiー41^<D5>株共に中性子のγ線に対する相対的生物効果比(RBE値)はほゞ1と変らない事から,meiー41修復系依存性で2.9kbDNA欠失に結果するDNA損傷の量はLETに依存しない事を示している。高LET放射線は二重鎖切断を高密度かつ高頻度に誘発する事,二重鎖切断の修復がら染色体組換えが生ずる事はイ-ストで報告されている。今回検出した突然変異は二重鎖切断以外の損傷修復によると考えられる。今後さらに実験をくり返す事により今回の結果を確認すると共に,除去修復欠損株を含め種々のDNA修復欠損株を用いて研究を進めたい。
著者
池永 満生 吉川 勲 古城 台 加藤 由美子 綾木 歳一 梁 治子 石崎 寛治 加藤 友久 山本 華子 原 隆二郎 Ikenaga Mitsuo Yoshikawa Isao Kojo Moto Kato Yumiko Ayaki Toshikazu Ryo Haruko Ishizaki Kanji Kato Tomohisa Yamamoto Hanako Hara Ryujiro
出版者
宇宙開発事業団
雑誌
宇宙開発事業団技術報告 = NASDA Technical Memorandum (ISSN:13457888)
巻号頁・発行日
pp.306-338, 1994-10-20

HZE(高エネルギー重荷電粒子)および宇宙放射線の遺伝的影響を調べるため、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の成虫雄と幼虫をスペースシャトル/エンデバー号(STS-47)に搭載し、雄の生殖細胞(精子やその元となる精原細胞など)に起こる伴性劣性致死突然変異と、幼虫の翅原基体細胞に起こる染色体のつなぎかえによる突然変異を調べた。用いた系統は、標準的な野生株(Canton-S)と放射線高感受性株(mei-41)である。各系統で、成虫雄は200匹ずつ、幼虫は約6000匹ずつを搭載し宇宙環境に曝すとともに、ほぼ同数を地上対照群として、宇宙飛行群と同じ環境条件(温度と湿度)で飼育した。宇宙飛行は約8日間であった。帰還した雄のハエは、伴性劣性致死突然変異を調べるため、検出用系統の処女雌に交配し、次々世代で致死遺伝子を保有しているX染色体を検出した。宇宙飛行群の致死遺伝子をもった染色体頻度は、地上対照群の頻度に比べて、野生株では2倍、放射線高感受性株では3倍高かった。幼虫は、帰還時にほとんどが蛹になっており、翌日より徐々に羽化が始まった。羽化した成虫は、順次70%アルコールで貯蔵し、後に翅標本を作成して、染色体突然変異由来の翅毛変異スポットを調べた。野生株では、宇宙飛行群と地上対照群の頻度は、ほぼ同じであった。放射線高感受性株から分離してくるMuller-5個体における頻度は、地上対照群に比べて宇宙飛行群では、1.5倍高かった。しかし、放射線高感受性個体における宇宙飛行群の頻度は、地上対照群に比べて有意に低い頻度を示した。地上対照群に比べて、宇宙飛行群の劣性致死突然変異の高頻度は、生殖細胞において、放射線と微小重力の突然変異誘発作用への相乗効果を示唆している。しかし、この相乗効果は、体細胞の染色体突然変異誘発作用に対しては観察されなかった。