著者
羽鳥 隆英
出版者
日本映画学会
雑誌
映画研究 (ISSN:18815324)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.4-27, 2019 (Released:2020-04-09)
参考文献数
37

本論は橋本忍の脚本を岡本喜八が監督した映画『日本のいちばん長い日』における昭和天皇表象の研究である。初めに 2019年現在の研究状況や岡本の作家的な経歴における天皇の問題を確認した上(第 I節)、劇中に張り巡らされた様々な水準のコミュニケーションに着目しつつ『日本のいちばん長い日』の長大な物語を整理した(第II 節)。次に映画大詰の玉音放送の場面を構成する映像=音響の相関性を精査し、先行の玉音放送表象などとも比較しつつ、『日本のいちば ん長い日』が試みる二重の異化と一重の相対化を指摘した(第III節)。さらに映画半ばの天皇による「大東亜戦争終結ノ詔書」の署名、玉音盤の吹込と特攻出撃の並行編集に焦点を絞り、第一に「サウンド・ブリッジ」を活用した音響設計(第IV節)、第二に天皇役の 8代目・ 松本幸四郎と特攻基地の指揮官・野中大佐役の伊藤雄之助の関係に着目しつつ(第V節)、天皇表象に暗示的に仕掛られた価値転覆性を指摘した。
著者
羽鳥 隆英
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

2009年度は、前年度末かち依頼を受けて編集部員として参加していた三省堂の出版企画『日本映画作品事典』(仮題、山根貞男/佐崎順昭編著、2010年刊行予定)のための調査が高く評価され、新たに署名入り原稿を多く執筆した。なかでも並木鏡太郎、佐々木康、渡辺邦男という、これまでの日本映画史の記述からは完全に漏れていた監督の作品解説を担当するなかで、一般にはアクセスすることが難しい彼らの膨大な作品群をほぼ網羅的に鑑賞し、またその同時代における批評言説の分析を通じて、日本映画におけるメロドラマ的想像力への知見を深めることができたのは幸運であった。とりわけ佐々木と渡辺はともに長谷川伸文学の映画化を複数回試みており、研究課題の遂行に益するところ大であった。また2009年10月からは、本年度より非常勤講師(映画研究担当)を務める京都造形芸術大学映画学科において長谷川伸の代表的な股旅物の戯曲『瞼の母』公演(2010年4月17日/18日、同大学高原校舎にて上演の予定)に演出補佐として参加した。この公演の独自性は男役・女役を問わず出演者全員が同学科の俳優専攻の女子学生である点にあり、女剣劇という日本文化史上の興味深い水脈の魅力を教えるだけでなく、メロドラマ研究における鍵概念(文化的性、身体、演技、異性装など)を再考察するうえでの貴重な機会となった。これらの成果を踏まえて、二本の研究論文を準備した。それは日本のメロドラマ映画史において独自の位置を占める映画作家・マキノ雅弘が長谷川伸の戯曲『刺青奇偶』を映画化した『いれずみ半太郎』(東映、1963年)のテクスト分析「運命《線》上に踊る男と女-マキノ雅弘『いれずみ半太郎』分析」(日本語版)および"Why Does Not Onaka Fall?: A Textual Analysis of Makino Masahiro's Odd and Even"(英語版)である。残念ながら年度内の発表はできなかったが、2010年前半までには両者とも査読制学術誌に投稿の予定である。