著者
角田 肇 臼杵 〓 岩崎 寛和 美誉志 康 市川 意子
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.437-445, 1983-04-01

女性性器は膣から卵管に至る管腔臓器であり,性交,月経,分娩など細菌感染の機会も多いという解剖生理学的な条件から,性器感染症の頻度が高い理由を説明できる.従来子宮腔や卵管などは生理的には無菌と信じられているが,かかる要因から,発症するか否かは別として,細菌が上行して存在する頻度は決して少なくないと推定される.一方子宮頚部病変に由来する子宮周囲組織(傍結合織)の炎症性変化,いわゆる傍結合織炎の病態については諸説があって結論がえられていない.以上の実態を明らかにすべく研究を行った.対象は子宮癌16例と子宮筋腫,内性子宮内膜症だと良性疾患13例で,すべて腹式子宮全摘出術時に各組織を無菌的に採取し,膣分泌物も含めて好気性ならびに嫌気性菌の検出を系統的に行なった.1.良性疾患では13例中6例に嫌気性菌を証明した.2.子宮内膜から5例,卵管および傍結合織から5例に細菌の存在が証明された.3.頚癌0期のうち,円錐切除後の2例では,頚部周囲組織に著明な細菌感染を認めた.4.頚癌および体癌では,進行期が進むにつれて,リンパ節ならびに傍結合織中に細菌検出率が上昇した.5.膣以外の部位に嫌気性菌を証明しえた頻度は良性疾患では13例中3例に過ぎなかったが,子宮癌では16例中9例と過半数を占めた.6.膣と膣以外の部位との細菌叢の相関は,余り密接ではないが,ある程度の相関性を認めた.なお証明された細菌叢の大部分は腸内細菌叢として知られているものである.以上の成績から,膣内細菌叢は上行性あるいは経頚管壁リンパ行性に内性器および周囲組織に波及し,常在菌叢として存在することが証明されたが,これらの細菌は生体の条件により慢性あるいは急性炎症を惹起する,いわゆるopportunistic infectionの可能性を示唆している.