著者
角田 肇 吉川 裕之
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

子宮頸部に発生する扁平上皮病変(扁平上皮癌を含む)はその原因としてHPV(Human papillomavirus)が関与していることが明らかにされているが、腺癌においても同様に発癌関与している可能性がある。子宮頸部腺癌におけるHPV陽性率は報告によって30〜90%とばらつきがあり、また腺癌病変の周辺にはしばしば扁平上皮病変を伴うため、これまでの報告が腺癌部の感染の状態を正確に反映しているか、あるいは扁平上皮に感染したHPVを観察しているのかははっきりしない。本研究ではLaser capture microdissection法により、子宮頸部腺癌部のみのHPV感染を厳密に確認することで、腺癌においても扁平上皮癌と同様にHPV感染が発癌の契機となっているのかを検討した。子宮頸部腺癌症例60例(類内膜腺癌19例、内頸部型37例、腸型1例、低分化腺癌2例、未分化腺癌1例)についてLaser capture microdissection法を用いて腺癌部のみを扁平上皮部、間質と別に採取し、コンセンサスプライマーを用いたPCR-RFLP法によりHPVのタイピングを行った。腫瘍部のHPV感染の有無を検討すると60例中38例(63.3%)でHPV感染を認めた。内訳は内頸部型37例中21例(56.8%)、腸型1例は陰性、類内膜型19例中15例(78.9%)、低分化腺癌2例中1例、未分化腺癌1例中1例であった。陽性例38例中32例が18型に感染していた(複合感染7例を含む)。一方、扁平上皮病変(CIN)では検討が可能であった16例中5例(31.3%)でHPV18型に感染していた。腺癌部と扁平上皮部で異なる型のHPVに感染している症例はなかった。以上より扁平上皮の混入をなくした頸部腺癌細胞そのものにHPV感染が認められることが明らかとなり、18型感染が優位であることが確認された。また、共存する扁平上皮病変と同一の型のHPV感染であることを証明した。
著者
吉川 裕之 八杉 利治 沖 明典 角田 肇 川名 敬 市川 喜仁
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

1.臨床応用の第一歩として・ボランチア13名にこのL2ワクチンを経鼻的に投与する第I/II相試験を行い、VLP抗体および中和抗体の上昇を確認するとともに、安全性を確認した。このL2ワクチンは、最も型共通性でかつウイルスの細胞内エントリーに最も重要な役割を有する領域のペプチドである。pacebo3名、0.1mgが5名、0.5mgが5名にアジュバントなしで経鼻接種され、0.5mgの群の4名においてHPV16とHPV52のL1/L2 VLPに対する中和抗体が誘導され、有害事象はなかった(Vaccine,2003)。2.ワクチン接種の対象者や適応・end pointを決める上でHPV感染からCIN発生、CIN進展に関わる研究を行った。HPV16/52/58のうち複数のVLP抗体を有する場合にCINになりやすく、HPVの1つの型に抗体を有しても他の型の感染やそれに引き続くCIN発生を抑制しないことを示した(J Med Vjrol,2003)。3.HPV16陽性のCINと子宮頸癌において、E6塩基配列のvariationとHLA Class II allelesを検討し、E6 prototypeではDRB1^*1501とDQB1^*0602、D25E(アジア型)ではDRB1^*1502、L83V(ヨーロッパ型)ではDQB1^*03032が有意に高頻度であった(Int J Cancer,2003)。
著者
角田 肇 臼杵 〓 岩崎 寛和 美誉志 康 市川 意子
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.437-445, 1983-04-01

女性性器は膣から卵管に至る管腔臓器であり,性交,月経,分娩など細菌感染の機会も多いという解剖生理学的な条件から,性器感染症の頻度が高い理由を説明できる.従来子宮腔や卵管などは生理的には無菌と信じられているが,かかる要因から,発症するか否かは別として,細菌が上行して存在する頻度は決して少なくないと推定される.一方子宮頚部病変に由来する子宮周囲組織(傍結合織)の炎症性変化,いわゆる傍結合織炎の病態については諸説があって結論がえられていない.以上の実態を明らかにすべく研究を行った.対象は子宮癌16例と子宮筋腫,内性子宮内膜症だと良性疾患13例で,すべて腹式子宮全摘出術時に各組織を無菌的に採取し,膣分泌物も含めて好気性ならびに嫌気性菌の検出を系統的に行なった.1.良性疾患では13例中6例に嫌気性菌を証明した.2.子宮内膜から5例,卵管および傍結合織から5例に細菌の存在が証明された.3.頚癌0期のうち,円錐切除後の2例では,頚部周囲組織に著明な細菌感染を認めた.4.頚癌および体癌では,進行期が進むにつれて,リンパ節ならびに傍結合織中に細菌検出率が上昇した.5.膣以外の部位に嫌気性菌を証明しえた頻度は良性疾患では13例中3例に過ぎなかったが,子宮癌では16例中9例と過半数を占めた.6.膣と膣以外の部位との細菌叢の相関は,余り密接ではないが,ある程度の相関性を認めた.なお証明された細菌叢の大部分は腸内細菌叢として知られているものである.以上の成績から,膣内細菌叢は上行性あるいは経頚管壁リンパ行性に内性器および周囲組織に波及し,常在菌叢として存在することが証明されたが,これらの細菌は生体の条件により慢性あるいは急性炎症を惹起する,いわゆるopportunistic infectionの可能性を示唆している.