著者
市川 意子 市川 忠雄 溝本 朋子
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.780-786, 1996-09-25
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

限局した一地方で得られたウシ乳房炎から分離した黄色ブドウ球菌の毒素産生性パターンと,同じ地域の病院患者から得られた黄色ブドウ球菌が同じパターンをもっているかどうかを検討し,地域的に同じパターンの黄色ブドウ球菌がウシとヒトとの感染症に分布している可能性をみた.用いた黄色ブドウ球菌は,1990年10月から1993年9月までの間に千葉県館山市付近における132の酪農家のウシ乳房炎乳から分離した290株と,1992年11月から1993年3月の間に,病院患者から分離した131株である.その結果,1) ウシ乳房炎乳からの分離株では,コアグラーゼVI型が最も多く,毒素は57.9が産生していてエンテロトキシン(SEA~D)が51.7%,毒素性ショック症候群毒素-1(TSST-1)が31.7%を占めていた.エンテロトキシン産生株中でSECが47.3%と最も多かった.2) ヒト臨床分離株では,コアグラーゼはII型が最も多く,ウシ株に多かったVI型はなかった.毒素は73.3%が産生していてエンテロトキシンが68.7%,TSST-1が45.0%を占めていた.エンテロトキシン産生株中でSECが54.4%と最も多かった.3) コアグラーゼ型と毒素産生の組合せで最も多かった菌株は,ウシではVI型,SEC,TSST-1の組合せで全体の19.3%,ヒトではII型,SEC,TSST-1の組合せが全体の36.6%であった.4) 卵黄反応は,ウシ株およびヒト株でそれぞれ68.5%および96.2%の陽性割合であった.前者ではVI型,SEC,TSST-1株の97.8%が陰性であったのに対して,後者ではII型,SEC,TSST-1株の95.8%が陽性であった.5) 同じ地域におけるヒト臨床分離株とウシ乳房炎からの分離株との間に,毒素産生プロフィールの共通性は認められなかった.
著者
市川 忠雄 大西 啓之 梅津 崇慎 市川 意子 野附 巌 中野 光志
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理研究会誌 (ISSN:09166505)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.53-61, 1994-10-25

青森県下の20戸の酪農家について、夏、秋、冬の3回100項目からなる「畜舎環境衛生改善調査表」を用いて調査を行なうとともに、このうちの4戸について温熱環境やアンモニアガス濃度測定を行なった。さらに、この4戸において2週間間隔で全搾乳牛の乳房炎検査を分房乳サンプルについてCMT変法で実施し、環境調査の得点と乳房炎検査成績との関係を検討した。20戸の環境調査の総合平均得点は65、66および67点とわずかだが調査ごとに改善がみとめられた。しかし、調査項目の中項目別に各配点数を満点としてその得点割合をみると、「搾乳の衛生管理」と「牛体の管理」が3回の調査ともに60%に達せず、他の中項目の得点割合と較べて低かったので、これらの項目を重点的に改善を計る必要が感じられた。朝搾乳前に測定した畜舎内外の温度差は、夏から冬へと季節か進むにしたがって平均0.3、1.7、3.6℃と大きくなったか、農家間に平均して1.4℃の違いか認められた。測定した4牛舎とも閉鎖型であるが断熱材は使用せず、夏季には開放部をできるだけ開放していたので、舎内風速も農家による違いが大きく、とくに夏季には6-0.3m/sと差があった。アンモニアガス濃度は平均して夏1.8ppm、冬4.2ppmであったが、舎内外の温度差が大きく舎内風速が低い農家で高かった。上記4戸における分房別乳房炎陽性率は、秋から冬にむかって全般的に低下の傾向を示したが、平均して4〜10%前後で推移した。全13回にわたる乳房炎検査成績を陽性反応の凝集程度とその発現頻度に応じてスコアー化し、農家ごとに1分房当たりの価として環境調査成績の平均得点と比較した。乳房炎スコアーが0.40と最も高かった農家の環境調査得点は57点と最も低く、逆にスコアーが最も低い農家は74点の得点であった。盲乳発生状況と畜舎構造、とくに牛床長の適否や牛繋留方式との関連について検討した。日本家畜管理研究会誌、30(2) : 53-61.1994.1994年6月8日受理
著者
角田 肇 臼杵 〓 岩崎 寛和 美誉志 康 市川 意子
出版者
社団法人日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.437-445, 1983-04-01

女性性器は膣から卵管に至る管腔臓器であり,性交,月経,分娩など細菌感染の機会も多いという解剖生理学的な条件から,性器感染症の頻度が高い理由を説明できる.従来子宮腔や卵管などは生理的には無菌と信じられているが,かかる要因から,発症するか否かは別として,細菌が上行して存在する頻度は決して少なくないと推定される.一方子宮頚部病変に由来する子宮周囲組織(傍結合織)の炎症性変化,いわゆる傍結合織炎の病態については諸説があって結論がえられていない.以上の実態を明らかにすべく研究を行った.対象は子宮癌16例と子宮筋腫,内性子宮内膜症だと良性疾患13例で,すべて腹式子宮全摘出術時に各組織を無菌的に採取し,膣分泌物も含めて好気性ならびに嫌気性菌の検出を系統的に行なった.1.良性疾患では13例中6例に嫌気性菌を証明した.2.子宮内膜から5例,卵管および傍結合織から5例に細菌の存在が証明された.3.頚癌0期のうち,円錐切除後の2例では,頚部周囲組織に著明な細菌感染を認めた.4.頚癌および体癌では,進行期が進むにつれて,リンパ節ならびに傍結合織中に細菌検出率が上昇した.5.膣以外の部位に嫌気性菌を証明しえた頻度は良性疾患では13例中3例に過ぎなかったが,子宮癌では16例中9例と過半数を占めた.6.膣と膣以外の部位との細菌叢の相関は,余り密接ではないが,ある程度の相関性を認めた.なお証明された細菌叢の大部分は腸内細菌叢として知られているものである.以上の成績から,膣内細菌叢は上行性あるいは経頚管壁リンパ行性に内性器および周囲組織に波及し,常在菌叢として存在することが証明されたが,これらの細菌は生体の条件により慢性あるいは急性炎症を惹起する,いわゆるopportunistic infectionの可能性を示唆している.