著者
與那覇 里子
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.1-13, 2020-07-01 (Released:2020-08-27)
参考文献数
18

本研究の目的は,新聞において若者がネット上のフェイクニュースを信じているとの言説が浸透していった経緯を明らかにすることである。2016年の米大統領選以降,沖縄の地元紙2紙は,インターネット上のフェイクニュースを若者が信じているとの指摘が多いが,高齢者がフェイクニュースを信じているという指摘をした記事もなかった。全国紙・地方紙の過去記事のデータベースから若者がフェイクニュースを信じているとする関連記事を抽出する。記事内容を確認し,新聞言説の広がりの経緯を追う。結果,メディアを専門としない複数の専門家がコメントの中で学生とのやりとりを通しての言及をはじめ新聞週間や主権者教育など,フェイクニュースを信じる若者を問題視する形で,繰り返し新聞に取り上げられていた。一方で,専門家が発言を始めてから,記者が実際に裏付け取材をするまで1年7カ月を要していた。沖縄の若者がフェイクニュースを信じているとの根拠は乏しかったものの,「伝聞」の状態でマスメディアが取り上げ続けたことで「本当」のこととして見なされていた。また,地元2紙が沖縄の若者がデマを信じているとの指摘を始めた後に,地元2紙以外の新聞社も同様の記事を扱い始めていた。本研究は,対象となった記事の件数が少ないため,一般化することは適当ではないが,正確と公正を謳う新聞社が専門家のコメントに依存している可能性があると指摘した点では意義がある。