著者
芳原 敬士 宮川 清
出版者
長崎大学
雑誌
長崎醫學會雜誌 : Nagasaki Igakkai zasshi (ISSN:03693228)
巻号頁・発行日
vol.79, pp.282-285, 2004-09

DNA損傷に対し,相同組換え修復においてRad51と協調しているRad51 paralogの1つであるXRCC3の機能解析を行った. 遺伝子ターゲティングによりヒト大腸癌細胞(HCT116)からXRCC3遺伝子欠損細胞を作製し,作製したXRCC3欠損細胞に,野生型XRCC3 cDNA,および乳癌や膀胱癌などの発症リスクに関与することが報告されている遺伝子多型(T241M)を有するXRCC3 cDNAを発現することによって相補性実験を行った. その結果,XRCC3は,Rad51依存性の相同組換え修復に重要な役割を果たすとともに,DNA複製にかかわるRPAの機能を制御することによって複製の開始点をも調節していることを証明した. 更に遺伝子多型は,修復能は正常であるが複製調節能には異常をきたしていることも明らかになった. これらは,相同組換え修復はDNA複製機構と密接に連関し,その異常は発癌のリスクに関与する可能性を示唆するものと考えた. この実験は被爆者に置き換えると,被爆後のDNA障害に対する細胞内応答現象の1つを説明する事が出来るモデルであり,原爆後遺症としての発癌に関係する染色体不安定性の分子機構の1つとして考えられた. ノックアウトの作製は従来はCHOあるいはDT40等の脊椎動物細胞での報告があるが,我々は,HCT116細胞を用い,機能解析を行った. この細胞は,ミスマッチ修復異常を有する欠点を持っているが,それゆえに相同組換え頻度が相対的に高くノックアウトが比較的容易であり,p53が正常であるために細胞周期の研究に有用であると思われた.