著者
薗田 将樹 若林 邦江 田村 奈穂 石川 俊男
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.453-459, 2016 (Released:2016-05-01)
参考文献数
15

目的 : 摂食障害は慢性難治性の疾患で, さまざまな身体合併症がみられる. その中でも腎機能障害がしばしば認められる. 今回, 当院の入院摂食障害患者の腎機能障害についてretrospectiveに調査検討を行った. 方法 : 対象は2010年4月~2013年11月までに当科に入院した摂食障害患者で, 書面で研究の同意を得た198例 (ANbp 93名, ANr 52名, BNp 32名, EDnos11名) であった. 対象の病型, 入院時年齢, 入院時BMI, 罹病期間, 生化学所見を診療録より調査し, 欠損値のある症例を除いた計149例に対して, 統計学的手法を用いて病型別に検討した. 結果 : 149例のうち, 慢性腎臓病 (chronic kidney disease : CKD) を合併していた入院摂食障害患者数を調べたところ, 38.3% (57/149名) であり, 病型別の割合はANbp : 58.4% (45/77名), ANr : 18.4% (7/38名), BNp : 19.2% (5/26名), EDnos : 0% (0/8名) であった. 各病型のeGFR (estimated glomerular filtration rate) はANbp : 中央値 ; 54.3, 四分位範囲 (39.4~74.8), ANr : 中央値 ; 76.8, 四分位範囲 (62.2~92.0), BNp : 中央値 ; 77.7, 四分位範囲 (61.7~89.8), EDnos : 中央値 ; 78.7, 四分位範囲 (74.2~92.9) であった. ANbpはANr, BNp, EDnosに比較してeGFRの有意な低下がみられた (p≦0.05). ANbpで, eGFRとBMI, eGFRと罹病期間の項目間で有意な相関がみられた (eGFRとBMI : r=0.38, p<0.01, eGFRと罹病期間 : r=0.44, p<0.01). また, BNpでeGFRと罹病期間の間に有意な相関がみられた (eGFRと罹病期間 : r=−0.60, p<0.05). 各病型のeGFRにおいて, 低カリウム (K) 血症 (K<3.5mEq/l) の有無の群間でMann-WhitneyのU検定を行ったところ, ANBpとBNpで群間に有意差がみられた. 考察 : ANbpでは摂食障害の他の病型と比較して, eGFRの統計学的に有意な低下がみられた. また, ED患者においてBMI低値, 長期間の罹病期間, 低K血症がCKDのリスクとなるという結果であった. 結論 : ED患者の腎機能障害は頻回に遭遇する病態と考えられ, 腎機能保護を考慮した治療が必要である. 特にANBpにおいては高度の腎機能障害のリスクが高いため, 早期よりの評価・介入が望ましい.
著者
富田 吉敏 庭瀬 亜香 知場 奈津子 小林 仁美 若林 邦江 田村 奈穂 石川 俊男
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.51, no.7, pp.635-643, 2011-07-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
13

心身症の治療は"心身相関の気づき"を促すことである.摂食障害患者の中には,感情,身体症状,食行動に過剰にとらわれる人たちがいて,おおむね治療への意欲に欠け,抵抗が強い.さらにその中で,発言内容が冗長・緩慢,被害的で疎通が悪く情動不安定などの特徴をもち,内省困難で,"心身相関の気づき"が得られにくい症例がある.心理社会的背景では,社会不適応,学業不良,保護者の無理解など生育環境に問題を呈する,などの特徴をもつ場合が少なくない.当科受診患者(外来および入院)の中で,上述の特徴をもち,同意が得られた症例でWechsler成人知能検査第3版(WAIS-III)を施行した.結果はFIQ55〜79と軽度〜境界域の知的能力に相当する症例が目立った.治療法では,薬物療法の併用,短期入院の繰り返し,家族参加などが有効と思われるが,認知変容は困難であった.