著者
荒川 典子 秦 和文 栗原 加奈 川嵜 卓也 倉林 均 間嶋 満
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B0051, 2006 (Released:2006-04-29)

【はじめに】視床障害の臨床症状として,感覚障害,不全片麻痺,運動失調症が代表的であるが,不随意運動としてジストニアが出現することも知られており,その頻度は17%程度とされている.今回,視床出血後に生じたジストニアが歩行及びADL能力改善の阻害因子となった3症例の理学療法を経験したので,その内容と経過について報告する.【症例紹介及び理学療法経過】<症例1>57歳男性,右視床出血.第2病日から脳外科病棟にて起立・歩行練習開始.第13病日リハ科転科.転科時のgrade(上肢/手指/下肢)は左6/10/10.左深部感覚脱失.第30病日頃から歩行・応用動作時,左上下肢にジストニアが出現し,同時に左肩関節痛も見られるようになった.歩行・階段昇降時に出現するジストニアと左肩関節痛に対して,疼痛及びジストニアが誘発されない肢位・運動強度での動作練習を実施.この際,左上下肢の深部感覚障害もジストニア発現に関与していると思われたため視覚フィードバックを用いた.第74病日,T字杖での監視歩行が室内で可能となり自宅退院.左深部感覚に改善はなく,左上下肢の痺れも残存.<症例2>68歳男性,右視床出血.第2病日から脳外科病棟にてベッド上座位開始.第6病日から端坐位,第19病日から起立,第22病日から歩行練習開始.第31病日リハ科転科.転科時のgradeは左10/10/10.左深部感覚中等度鈍麻.歩行・起立時に左上肢近位部・体幹にジストニア出現し,歩行時には左短下肢装具・膝装具を使用しても中等度の介助を要した.歩行時のジストニアに対し,運動療法と並行して薬物療法施行.第36病日からは歩行練習を中止し,下肢筋力強化,ジストニア抑制肢位で視覚フィードバックを用いた起立練習を実施.第53病日から平行棒内歩行,第66病日から四点杖歩行開始.第99病日,室内での四点杖による歩行が自立し,自宅退院.左深部感覚に改善なし.<症例3>64歳女性,右視床出血.発症当日から脳外科病棟にて起立練習開始,第5病日から歩行練習開始.第6病日リハ科転科.転科時のgradeは左11/11/10.左深部感覚重度鈍麻.左上下肢・体幹にジストニアを認め,歩行にはT字杖を用い,更に軽介助を要した.ジストニア抑制肢位での起立練習を実施.第32病日,独歩にて自宅退院.左深部感覚は中等度鈍麻.【まとめ】ジストニアの発症には深部感覚障害に基づくものと,大脳皮質-基底核間の運動制御ループの破綻によるものとの二つの生理学的機序が想定されている.ジストニアは強い筋収縮を伴う運動や精神的負荷で誘発されやすいことが知られており,今回の理学療法においてはジストニアが誘発されない範囲の負荷での反復運動を施行し,筋力強化や動作能力の向上を図ることが有効であることが示唆された.また,深部感覚障害によるジストニアの発現も考慮し,運動時のジストニア出現の自己抑制を目的とした,視覚フィードバックを利用することも重要であると思われた.