著者
荻津 格
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.67, no.8, pp.548-555, 2012-08-05 (Released:2019-10-18)
参考文献数
147

X線回折実験に基づくホウ素元素固体の結晶構造解析の研究報告によれば,常圧で熱力学的に安定であることが知られているβホウ素の六方晶単位胞中には423の原子位置があり,そのうち約320が占有される.このうち23原子は126原子位置にほぼ乱雑に配置される.最近の理論研究は,この不完全原子占有状態は化学結合数と価電子数の整合性を保つのに必要不可欠であること,また,不完全占有状態は,スピン氷などに特異な低温物性をもたらすことで知られている幾何学的フラストレーションを持つこと,などを明らかにした.本記事では,歴史的な背景を交え,ホウ素研究におけるごく最近の展開,熱力学の第三法則との関係,などを解説する.