著者
菅原 道夫
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.68-75, 2013-05-10 (Released:2013-07-10)
参考文献数
25

ニホンミツバチが,捕食者であるスズメバチを蜂球に閉じ込め殺す仕組みを明らかにした。スズメバチが蜂球に捕捉されると,蜂球内では温度だけでなく湿度も急速に上昇する。5分後には温度は46℃に,湿度は90%以上になる。この時,蜂球内の炭酸ガス濃度は4%に達する。多くのスズメバチは,蜂球内では10分で死ぬ。スズメバチの死をもたらす要因を,蜂球内の湿度とCO2濃度を変え致死温度を測定することで考察した。実験に使用した4種のスズメバチのいずれにおいても,CO2濃度3.7%(ヒトの呼気環境)では,2℃以上も致死温度が低下した。相対湿度が90%以上になると,さらに致死温度が低下した。ヒトの呼気環境中では,大気中に比べCO2は増加し酸素は減少するが,酸素を補っても致死温度は変わらなかった。ニホンミツバチは,蜂球中のスズメバチを酸素欠乏によって窒息死させるのでなく,高温,高湿,高濃度のCO2,の環境中でスズメバチの致死温度を下げることで殺していると考えられた。
著者
菅原 道夫
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.11-17, 2013-03-01 (Released:2013-04-02)
参考文献数
26
被引用文献数
1

キンリョウヘン(Cymbidium floribundum)の花に,ニホンミツバチ(Apis cerana japonica)の働きバチだけでなく,オバチも女王バチもさらには分蜂群や逃亡群までもが誘引されることが知られている。この誘引物質が,3-hydroxyoctanoic acid(3-HOAA)と10-hydroxy-(E)-2-decenoic acid(10-HDA)の混合物であることを明らかにすることができた。ニホンミツバチは,大顎腺に3-HOAAと10-HDAを持っていると報告されている。まだ確証はないが,この混合物は集合フェロモンとして機能していると思われる。これらは混合物としてはじめて機能し,単独では誘引力がない。キンリョウヘンは,ハチの大顎腺から分泌されるフェロモンを擬態しニホンミツバチを誘引していると考えている。 これまで,日本では,ニホンミツバチを使った伝統的な養蜂において,分蜂群を捕獲するためにキンリョウヘンが利用されてきた。この誘引物質の発見は,キンリョウヘンの代わりになる分蜂群を捕獲するルアーの作成に道を開く。さらに,これらの成分に ニホンミツバチと同様に誘引される22)トウヨウミツバチ(A. carina)の他の亜種を使った東南アジアにおける伝統的な養蜂の技術革新に貢献できると思われる。加えて,ジャワからのトウヨウミツバチの侵入がセイヨウミツバチ(A. mellifera)による養蜂の脅威となっているオーストラリアにおいて,トウヨウミツバチの効果的な捕獲法の開発を可能にするであろう。