著者
小池 健一 上條 岳彦 菊地 俊実 北原 文徳 藪原 明彦
出版者
信州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

チェルノブイリ原発事故後、ベラル-シ共和国の小児に甲状腺癌が高率に発生していることが報告されたが、細胞障害性T細胞、NK細胞活性などの腫瘍免疫能や造血能を調査した報告はない。そこで、われわれは^<137>Cs高汚染地域であるベラル-シ共和国ゴメリ州チェチェルスク地区の小児と非汚染地域であるボブルイスク市の小児について、それぞれの保健局、病院と連携して血液免疫学的検査、造血能および体内被曝量の測定を行い、これらの異常と放射線被曝との関連などを検討した。^<137>Cs高汚染地域に住む小児は白血球数、Hb値、血小板数、血液像には異常はなく、生化学所見も正常範囲内にあった。CD2、CD3、CD4、CD16陽性細胞の百分率は日本の同年齢の小児と同等あるいは高値を示した。一方、CD8、CD56陽性細胞の百分率およびCD4/CD8比は同等であった。また、免疫グロブリン、補体やPHA、ConAによるリンパ球幼若化反応も正常であった。K562細胞を標的細胞としてNK細胞活性を比較すると非汚染地域に住む小児は日本の小児とほぼ同等であったのに対して、高汚染地域に住む小児の約30%に機能異常(亢進あるいは低値)が認められた。しかし、^<137>Cs体内被曝量とNK細胞活性あるいはNK細胞数との間には相関は認められなかった。以上から、放射能汚染地域に住む小児には腫瘍免疫能特にNK細胞活性の異常がみられることが判明した。現在、放射能汚染地域に住む小児は行政上できるだけ食物により汚染されないように配慮されていることからNK細胞活性の異常が放射能被曝によるものなのかを明らかにするには成人を対象とする検討が必要である。