著者
菊地 勝弘 太田 昌秀 遠藤 辰雄 上田 博 谷口 恭
出版者
北海道大学
雑誌
海外学術研究
巻号頁・発行日
1987

今日まで研究代表者によって報告された低温型雪結晶は, ー25℃以下の比較的低温下で成長し, その頻度は, 時には結晶数全体の10%を占めることが明らかにされたが, これらの結晶形は, 複雑多岐で, まだ, 十分分類もされておらず, 「御幣型」や「かもめ型」は便宜上名付けられたもので, 正式の名称はない.一方, 極域のエアロゾルはその季節変化, 化学成分に注意が払われてきてはいるが, 降水粒子の核としての性質, つまり低温型雪結晶の結晶形, 成長との関連については全く注目されていない. この研究では, 低温型雪結晶を極域エアロゾルの性質を加味して総合的に研究し, 低温型雪結晶の成長機構を行らかにしようとするものである.昭和62年12月17日成田を出発した一行は, オスロで機材の通関を行い, ノールウェイ極地研究所で研究計画の打合せを行った後, 12月22日アルタおよびカウトケイノの研究観測予定地に機材と同時に到着した. 両観測地点共, 翌12月23日より観測を開発した. 第1図に観測地の地図を示した.今冬のヨーロッパは, ノールウェイを含め暖冬で, 観測期間中気温がプラスになったり, みぞれが降ることもあり, 必ずしも低温型雪結晶の観測に恵まれた条件とは言えなかったが, 以下に示すような膨大な試料を得ることができ, 必ずしも低温型雪結晶の観測に恵まれた条件とは言えなかったが, 以下に示すような膨大な試料を得ることができ, 成功であった. 得られたデータは次のようなものである. 偏光顕微鏡写真35ミリカラーフィルム65本, 35ミリモノクロームフィルム:2本, レプリカスライドグラス:340枚, 電顕用レプリカフィルム:205枚, ミリポアフィルターによるエアロゾル捕集:110枚, テフロンフィルターによるエアロゾル捕集:40枚, 降雪試料瓶:60本.この内, 低温型雪結晶を110個観測することができた. 特に今回は, 低温型雪結晶の「御幣型」に特徴的な成長がみられた. 即ち, 結晶成長の初期の段階であると考えられている凍結雲粒が1対の双晶構造をもって凍結し, それから両側に御幣成長したと思われる結晶が数多く発見された. 第2図はアルタで, 第3図はカウトケイノで今回新らたに観測された御幣型の雪結晶である. 更に地上気温が高かったためであろうか, それぞれのスクロール(渦巻状)から板状成長しているものも認められた.極域エアロゾルに関するアルタの観測では, 南側の内陸からの風系で直径0.3μm以上の粒子濃度は10個/cm^3であったが, 強風の場合は1個/cm^3まで減少し, カナダ北極圏よりやや少な目であった(第4図). 一方, 北側の海からの風系では, 1μm以上の粒子が増加した. これらの風系に対するエアロゾルと低温型雪結晶の中心核との関係については, 昭和63年度の調査総括により解析され, 明らかにされるであろう.
著者
泉 裕明 菊地 勝弘 加藤 禎博 高橋 暢宏 上田 博 遊馬 芳雄
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.147-158, 1996-03-31

近年, 酸性降水に対する関心が高まり, 日本各地においても降水のpHの測定結果が数多く報告されるようになってきた. しかし, 降雨に対して降雪の観測例は極めて少ない. また, 降雨は前線や低気圧によってもたらされるが, 北海道西岸の降雪はそれ等の外に, 季節風や季節風末期パターンといわれる独特の降雪機構をもっており, これ等の降雪機構による相違と降雪の化学成分濃度の変動に着目した研究はほとんどない. この研究では, 環境の異なる複数の観測点で, 30分から数時間毎に降雪の採取を行い, pH, 電気伝導度の他, イオンバランスのとれる主要イオンを全て測定することにより, 降雪機構の相違と降雪粒子の化学成分濃度の変動を調べたものである. その結果, 各観測点でのpHの平均値は4.6〜4.9で, いわゆる酸性雪であることがわかった. また, 都市や海の影響が大きく, はっきり出ていることもわかった. イオン濃度組成は, 降雪イベント毎によって大きく変動するが, 酸性度に注目すると, 季節風による降雪はpHが大きく, 低気圧による降雪は小さい傾向があった. また, 化学成分のウオッシュアウト率は, 低気圧による降雪の方が高いことが明らかになった.