著者
菊地 由紀子 石井 範子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.271-279, 2016-11-20 (Released:2016-12-03)
参考文献数
22
被引用文献数
4 4

目的:本研究は,訪問看護師の夜間のオンコール業務による負担感および睡眠への影響を明らかにすることを目的とした.方法:訪問看護師614人に対して質問紙調査を行い,対象の概要,夜間オンコールの担当状況,オンコール担当による精神的負担感,身体的負担感,睡眠の状況を調査した.オンコール担当日と非担当日の睡眠の状況を比較し,また,オンコール担当による負担感や睡眠の状況に影響する要因を検討するために,『精神的負担あり』『身体的負担あり』睡眠の状況『不良』を目的変数としたロジスティック回帰分析を行った.結果:有効回答であった187人を分析対象とした(有効回答率30.5%).オンコールを担当することを,81.3%が精神的に負担に感じており,69.4%が身体的に負担に感じていた.オンコール担当日は非担当日に比べ,睡眠時間は短く,中途覚醒回数が多かった.また睡眠の深さ,良眠感,すっきり感,睡眠満足感,入眠困難感の得点が悪化していた.オンコール担当による負担感や睡眠の状況に影響する要因を検討した結果,1ヶ月のコールを受けた回数が3回以上で,『精神的負担あり』および『身体的負担あり』の年齢調整後のオッズ比がそれぞれ2.51(95%信頼区間:1.05-6.00),2.44(95%信頼区間:1.20-5.00)で,有意に高かった.結論:1ヶ月のコールを受けた回数が3回以上で精神的負担および身体的負担を感じる者が多いことが明らかになった.オンコール担当日は非担当日に比べて睡眠の状況が悪いことがわかった.オンコール担当に対する手当,および休息や休日を適切に設ける必要があることが示唆された.
著者
佐々木 真紀子 石井 範子 菊地 由紀子 工藤 由紀子 杉山 令子 長谷部 真木子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.164-172, 2016-09-20 (Released:2016-10-07)
参考文献数
44
被引用文献数
3 2

目的:化学療法中の患者を看護している看護師の抗がん剤の職業性曝露の状況と看護内容との関連を検討する.対象:北東北2カ所の一般病院で化学療法中の患者を看護している女性看護師10名で,原則として抗がん剤の混合調製を実施していない看護師とした.方法:化学療法中の患者の看護に従事した日の24時間の尿を採取し,オランダのEXPOSURE CONTROL研究所に依頼して,尿中のシクロホスファミド(CP)とα-フルオロ-β-アラニン(FBAL)の定量分析をガスクロマトグラフ質量分析で行った.また,年齢,化学療法中の患者への看護内容とその際の防護具装着状況,最近の健康状態等について質問した.結果:CPは9人の看護師の24の尿サンプルから検出された.CPの総排泄量は一人あたり5.4~44.2 ng/24 h,平均は16.8 ng/24 hで病院間に有意な差はなかった.FBALはいずれの尿サンプルからも検出されなかった.CPは勤務開始前の尿からも検出され,またCPの点滴中の患者を看護していない看護師の尿中からも検出された.健康状態では脱毛があると回答したものが9名で最も多かった.考察と結論:本研究ではCPの点滴中の患者の看護を行っていない場合でもCPによる曝露があることが明らかになった.曝露の経路としてCPの吸入や皮膚からの吸収が考えられる.曝露を最小限にするためには,看護の様々な場面でも適切な個人防護具の装着が必要である.また今後は環境中の抗がん剤のモニタリングや看護師の健康状態のモニタリングを定期的に行っていくことが重要である.