- 著者
-
萩原 八郎
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- Geographical review of Japan, Series B (ISSN:02896001)
- 巻号頁・発行日
- vol.62, no.2, pp.86-103, 1989-12-31 (Released:2008-12-25)
- 参考文献数
- 41
この小論でとりあげる4都市は,人文・自然環境ともに大きく異なるが,その基本的都市施設である給・排水施設に着目し,地域性の理解を比較によって試みた。手順としては,まず東京とメキシコ市について比較・考察し,次に先進国と開発途上国の巨大都市という両者の関係をより多元的に検討するために,先進都市であるパリ,そしてメキシコ市同様に都市問題に苦慮するサンパウロの事例をとりあげ,それぞれ東京,メキシコ市と比較してみた。 その際,主に歴史的発展過程と現在の普及状況について各都市の特徴(長)や問題点を明らかにした。また,上・下水道システムを示す図はできるだけ同一の縮尺で表現し,比較しやすくした。 その結果,東京とパリの比較では,両者に共通している先進性にもその内容に違いがあることを確認し,一方メキシコ市とサンパウロ市の比較では,それぞれの独自性とともに問題点に共通性が認められた。 これらの比較を通して,各都市における普及の程度に優劣をつけることは可能であるが,それが本論の目的ではない。地域の自然環境に応じて必要性から作り上げられて現在に至った各都市の上・下水道システムはその地域性を反映するものであるという点を重視し,そのあり方自体には優劣をつけるべきものではなく,むしろそこに見られる優れた点や劣る点について相互に参考とすべきものであろう。その意味で,東京は先進都市であるパリの事例のみならず,開発途上国の巨大都市であるメキシコ市やサンパウロの事例からも参考になる点が少なからずあるといえる。