著者
三浦 洋 萩沼 之孝 水田 昂
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.27-36, 1963 (Released:2007-05-31)
参考文献数
10
被引用文献数
1 2

洋ナシ (バートレット種) は産地別に生育中ならびに追熟過程における生果および罐詰製品について, 和ナシは平塚産の適熟果の5品種について, ペクチンの性状を水溶性(W-S), ヘキサメタ燐酸ナトリウム可溶性 (P-S), 塩酸可溶性(H-S)の3つの可溶性区にわけ, ペクチン含量(%), 粘度 (inherent viscosity) および, この両者を総合したペクチンユニットについて検討した。1. 洋ナシ (1) 生育中のペクチン含量について, W-Sは成熟につれて減少するが, 中熟以降はその割合は少なく, 適熟果で約0.2%を示し, P-S, H-Sは成熟に伴う変化は少なく, P-Sで約0.1%, H-Sで約0.5%を示す。このことから追熟を行なわないかぎり, プロトペクチンは減少せず, 水溶性ペクチンも増加しないため, 肉質に洋ナシ特有の粘稠性をもつた食感を与えられないことは明らかである。また3可溶性成分の比率がW-S 20%, P-S 10~15%, H-S 65~70%のときが適熟果と考えられる。生育中のペクチンの粘度は成熟に伴つて増加し, 適熟果で最大の9前後を示し, 過熟になるとやや減少する。このことから, 質的には中熟以後かなり高分子のペクチンが含まれることが推察できる。生育中の全ペクチンユニットはあまり変化がなく, W-S, H-Sのペクチンユニットがその大きな要因となるが, 未熟果ではW-S, 成熟果ではH-Sがより大きく品質を左右するものと考えられる。(2) 追熟中のペクチン含量(%)ではW-Sは増加し, 罐詰の加工適期で0.3~0.4%を示し, H-Sは逆に追熟に伴つて減少し, 加工適期で0.1~0.2%を示すが, P-Sは追熟中ほとんど変らず, 約0.1%と少ない。したがつて加工適期では全ペクチン中W-Sが50~60%をしめる。追熟中の粘度の挙動については, 3可溶性ペクチンとも追熟の進むにしたがつて減少するが, H-Sの減少率は少なく, 加工適期でH-SはW-Sの約倍の4前後を示す。追熟中全ペクチンユニットは減少するが, 加工適期ではW-SとH-Sのユニットはほぼ同じ程度を示し, 全ペクチンユニット0.8~1.0で, W-S>H-Sの場合が品質はよいようである。(3) 洋ナシ罐詰製品中の果肉のペクチン含量(%)は生果の場合と異なり, W-Sは追熟によつてもそれほど増加せず, H-Sは減少するが, その割合は生果に比して少ない。加工適期の試料で各可溶性ペクチンの含量比率はW-S 55%, H-S 15%を示す。粘度は追熟度の進んだものは生果に比していちじるしく低下する。全ペクチンユニット中ではW-Sの方がH-Sのユニットよりもその比率は大きい。2. 和ナシ 和ナシの適熟果は洋ナシに比して全ペクチン含量低く, 0.1~0.2%で, H-Sは0.05%を示すが, W-Sは品種によつてかなり差があり, 多いもので0.12%, 少ないもので0.03%を示す。P-Sは0.01%と非常に少ない。したがつてH-Sは全ペクチン含量中35~55%を占め, 洋ナシの追熟果に比してその比率の大きいことが目立つ。粘度は洋ナシの追熟果に比してかなり高く, とくにP-Sの粘度の高いこと, W-SがH-Sよりも高いことが目立つ。このことから, 和ナシのペクチンは質的には洋ナシより高分子のものが含まれているといえよう。しかし, ペクチン含量が少ないので, 全ペクチンユニットはかなり低い。品種間では長十郎がもつとも高い数値を示している。