- 著者
-
落合 哉人
坊農 真弓
- 出版者
- 社会言語科学会
- 雑誌
- 社会言語科学 (ISSN:13443909)
- 巻号頁・発行日
- vol.24, no.1, pp.67-82, 2021-09-30 (Released:2021-11-16)
- 参考文献数
- 22
本稿では,指点字というコミュニケーション手段を用いる盲ろう者の会話において「揺さぶり」という動作が使用されることに着目し,基本的特徴の記述と会話の中での現れ方の検討の二点から使用実態の把握に取り組んだ.基本的特徴の記述に関しては,「揺さぶり」が,(a)長音記号とともに産出される傾向がある,(b)笑いを伴う,(c)直後に順番交替が生じる,という三つの特徴を持つことを示した.このことから当該の動作は,自らの発話に何かを面白く思う気持ちが伴うという感情的態度を示す方法となっていることを指摘した.一方,現れ方の検討に関しては「揺さぶり」を伴う発話が(1)先行する相手の発話の捉え方を示す側面と,(2)何らかの事柄に対する関心の高さを示す側面を持つことを取り上げた.特に事例分析を通して「揺さぶり」の使用が,言語形式とは独立して発話の捉え方を示したり,新たに言及された事柄に対する関心をもとに会話を展開させる余地を作ったりする実践となることを示した.