- 著者
-
林 俊郎
蒲生 恵美
- 出版者
- 目白大学
- 雑誌
- 目白大学総合科学研究 (ISSN:1349709X)
- 巻号頁・発行日
- vol.1, pp.45-56, 2005
「ダイオキシン法」制定の起爆剤ともなったテレビ朝日「ニュースステーション」の特集を巡る「ダイオキシン訴訟」について検証した。この訴訟は、特集番組によって野菜栽培農家の名誉が傷つけられ野菜価格が暴落したとして所沢の農家376名がテレビ朝日と野菜のダイオキシン濃度を公表した株式会社環境総合研究所の所長を告訴したものである。 ところが、この放送で公表された野菜の分析最高値とされたものは、野菜ではなく加工食品の煎茶であった。そのためこの報道に不適切な点があったとして郵政大臣がテレビ朝日に注意勧告を行った。ところが、裁判ではある資料が証拠として採用され、一・二審は農家側の敗訴となった。証拠資料とは、摂南大学の宮田研究室が分析したという「所沢産白菜の分析結果」である。一・二審の裁判官は、この分析値が特集番組で公表された最高値に近似していたことから、報道内容は真実であると審判した。 ところが、三審の最高裁は「視聴者は、ほうれん草をメインとする所沢産の葉っぱ物に煎茶が含まれるとは通常考えない」、また証拠資料として採用された白菜については「氏素性の定かでない、わずか一検体の白菜の分析結果をもってそれが真実であるとした原審は、明らかな法令の違反がある」として、本件を原審に差し戻す判決を行った。農家側の実質的逆転勝訴となった。 最高裁は宮田研究室が提出した証拠資料に対して重大な疑念を表明した訳である。しかし、審理は専ら証拠資料の氏素性に集中したが、この特集番組の構成そのものにも審理を尽くすべき点があった。ここでは、なぜ、一・二審と三審で180度異なった判決が下されたのか、その背景も含めてこの裁判の問題点を明らかにした。