著者
小松 隆 千葉 実行 戸塚 英徳 蓬田 邦彦 三国谷 淳 小野寺 庚午 高橋 健 中山 寛
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.281-287, 1994-03-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
16

うっ血性心不全を呈し,瀉血療法が有効であった原発性心ヘモクロマトーシスの1例を経験した.症例は38歳,男性.主訴は動悸.飲酒歴,輸血歴ならびに鉄剤内服歴はないが,家族歴に父親が心不全による突然死.平成元年より糖尿病ならびに肝機能障害で通院中であったが,平成3年7月25日早朝より動悸ならびに呼吸困難が出現し入院皮膚は青銅色を呈していた.入院時検査所見では血清鉄ならびにフェリチン,尿中鉄の増加を認めた.入院時胸部X線では心胸郭比61.5%と心拡大と両肺野にうっ血を,心電図では心拍数約160-180/分の心房細動を認めた.心エコー検査では左室内腔の拡大,左室全周性の壁運動低下を認めた.心筋シンチグラムでは左室のT1取り込みが全体的に不均一であり,脾臓の取り込み増加も認めた.心臓カテーテル検査では左室駆出率37.8%と左室ポンプ機能の低下を認めたが,冠動脈造影は正常であった.右心室心内膜心筋生検にて核周囲のライソゾームにヘモジデリンの沈着ならびにミトコンドリアの空胞変性を認め,原発性心ヘモクロマトーシスと診断した.瀉血療法開始の10カ月目に心臓カテーテル検査を再施行したところ,左室駆出率59.8%まで左室ポンプ機能は改善し,心筋生検でもヘモジデリン沈着の減少を認めた.原発性心ヘモクロマトーシスは予後不良でまれな疾患であるが,瀉血療法により臨床症状ならびに心機能の改善を認めた症例を経験し,治療上留意すべき点と思われ報告する.