- 著者
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蔡 毅
- 出版者
- 南山大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2017-04-01
日本の明治期と中国の清代末期の日中漢詩交流に関しては、もう一つの大きな課題が未解決のまま残っている。それは明治の「文明開化新詩」が清末の「詩界革命」に与えた影響である。「詩界革命」とは、西洋文明がもたらした新しい事相や言葉を伝統的な漢詩ジャンルに取り入れようとする清末の文学運動で、中国では画期的な文学革新であるため、重要な研究テーマとされてきた。ところが、その起源について、今までの研究はほとんど中国国内における西洋文明の影響のみに着目しており、中国より先に西洋文明の新しい機運を積極的に漢詩に取り入れた明治期の「文明開化新詩」との関係についての展望は皆無と言える。筆者の調査によれば、明治の「文明開化新詩」が清末の「詩界革命」に直接的または間接的に与えた影響に関しては、未だ多くの資料が埋もれており、それを用いて、さらに事実を解明し得る可能性を秘めているのみならず、明治期における日中文化交流の歴史を大いに書き直すことも見込まれる。また、明治期漢文学の研究視野は今まで日本国内に限られるが、その外延が彼方の中国まで伸びるという事実を確認することによって、明治期漢文学自身の再評価に繋がることも考えられる。