著者
米田 穣 向井 人史 蔡 錫圭
出版者
一般社団法人 日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.116, no.2, pp.161-170, 2008 (Released:2008-12-27)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

本研究では,国立台湾大学医学院体質人類学教室が収蔵する人骨コレクションに関する総合的研究の一環として,人骨中に残存するコラーゲンの炭素・窒素同位体比から,彼らが利用したタンパク質源を推定した。中央山地の高地に居住するブヌンの生業は,粟に特化した焼畑農耕と狩猟を主としたとされるが,骨コラーゲンの同位体比は陸上生態系およびC4植物の雑穀に依存した個体がある一方,窒素同位体比が比較的高い水産物に依存した可能性のある個体も検出されている。しかし,戦前の民俗調査では,ブヌンの漁撈活動は社によって大きく異なることが記されており,その意義についてはさらに議論が必要である。一方,台湾各地の先史時代遺跡から出土した古人骨では,非常に多様性に富んだ食生態が示された。海産物の利用やC4植物である粟などの雑穀の利用について,時代および地域間で大きな変動があったようだ。残念ながら,今回分析した古人骨資料は,帰属する文化層などの出土状況の記録が失われているので,今後放射性炭素などで,人骨の年代決定をすすめ,あわせて出土状況が明らかな古人骨資料のデータを積み重ねることで,台湾における食生態のダイナミックな変遷を明らかにできるだろう。
著者
竹中 正巳 蔡 佩穎 蔡 錫圭 盧 國賢
出版者
日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.122, no.2, pp.145-155, 2014 (Released:2014-12-19)
参考文献数
33

台湾花蓮県萬榮郷馬遠村から出土したブヌン族の頭蓋(男性26例,女性16例)について,顔面平坦度を含む頭蓋計測を行った。周辺諸族近現代人頭蓋との比較から,ブヌン族頭蓋の特徴として,頭蓋長幅示数が中頭およびバジオン・ブレグマ高が低いことが上げられる。顔面頭蓋は比較的高く,前頭部が立体的である。頭蓋計測値9項目(脳頭蓋最大長,脳頭蓋最大幅,バジオン・ブレグマ高,頬骨弓幅,上顔高,眼窩幅,眼窩高,鼻幅,鼻高)から,ペンローズの形態距離を求めたところ,ブヌン族には同じ台湾原住民のパイワン族が最も類似性が強く,タイヤル族が続く。ヤミ族は類似性が弱い。