著者
村田 弘貴 藤井 伸之 田内 広 立花 章
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第54回大会
巻号頁・発行日
pp.232, 2011 (Released:2011-12-20)

細胞にあらかじめ低線量の放射線を照射すると、その後の高線量放射線による生物影響を低減する現象を放射線適応応答という。この現象は、ヒトリンパ球を低濃度トリチウムチミジンで処理すると、その後の高線量X線による染色体異常頻度が低下するというWolffらの報告によって初めて示された。その後、トリチウムチミジン以外に低線量X線や低濃度過酸化水素などによる前処理でも同様の現象が観察され、またヒト以外の生物種の細胞や個体でも見られることが明らかにされた。これらのことから放射線適応応答は生物の持つ基本的応答機構であると考えられるが、その分子機構は明らかになっていない。我々はこれまでにマウスm5S細胞を用いて低濃度過酸化水素処理による適応応答誘導について検討し、protein kinase Cα(PKCα)が関与することを明らかにした。本研究では、DNA損傷と適応応答誘導との関連を明らかにするために、低濃度トリチウムチミジン処理による放射線適応応答誘導についてm5S細胞を用いて検討した。まず、Wolffらの実験条件に従い、増殖期のm5S細胞に3.7 kBq/mlのトリチウムチミジンを加えて細胞に取り込ませ、その後confluentにして接触阻止により細胞の増殖を止めた状態を保って、5 Gy X線を照射し、微小核形成を指標として放射線適応応答を解析した。その結果、m5S細胞でも低濃度トリチウムチミジンの前処理により放射線適応応答が誘導されることを確認した。さらに、トリチウムチミジンの至適濃度を検討するために、0.37 kBq/ml及び37 kBq/mlの濃度のトリチウムチミジン前処理も行ったが、3.7 kBq/mlによる前処理が最も効率よく放射線適応応答を誘導した。トリチウムチミジンの至適濃度や処理時間に加えてPKCαの関与についても報告する予定である。