著者
立花 章 小林 純也 田内 広
出版者
プラズマ・核融合学会
雑誌
プラズマ・核融合学会誌 = Journal of plasma and fusion research (ISSN:09187928)
巻号頁・発行日
vol.88, no.4, pp.228-235, 2012-04-25
参考文献数
30
被引用文献数
1

トリチウムの生物影響を検討するために,細胞を用いて種々の指標について生物学的効果比(RBE)の研究が行われており,RBE値はおよそ2であると推定される.だが,これまでの研究は,高線量・高線量率の照射によるものであった.しかし,一般公衆の被ばくは低線量・低線量率である上,低線量放射線には特有の生物影響があることが明らかになってきた.したがって,今後低線量・低線量率でのトリチウム生物影響の研究が重要であり,そのための課題も併せて議論する.
著者
馬田 敏幸 笹谷 めぐみ 立花 章
出版者
プラズマ・核融合学会
雑誌
プラズマ・核融合学会誌 = Journal of plasma and fusion research (ISSN:09187928)
巻号頁・発行日
vol.88, no.3, pp.190-197, 2012-03-25
参考文献数
34
被引用文献数
1

放射線の個体への影響について,人の疫学調査で得られた知見を一般的な観点から述べ,マウス個体を使ったトリチウム水による高線量・高線量率の研究により,何がわかっているのか明確にする.そして低線量・低線量率の放射線披ばくによる生物影響を感知する実験系をトリチウム生体影響研究に応用した研究や,必要とされている新しい高感度検出系の開発について概説する.
著者
田内 広 馬田 敏幸 立花 章
出版者
プラズマ・核融合学会
雑誌
プラズマ・核融合学会誌 = Journal of plasma and fusion research (ISSN:09187928)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.119-124, 2012-02-25
参考文献数
17
被引用文献数
1

核融合炉で利用されるトリチウムの量は少なくないことから,低濃度かつ少量のトリチウムによって生物が影響を受けるのか,そしてもし影響が出るのであれば,それはどのくらいの量(線量率)を超えれば生じる可能性があるのか,ということを科学的データによって明らかにすることが求められている.低線量放射線被ばくによる生体影響研究の現状と,これからのトリチウム生物学の方向について概説する.
著者
立花 章
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.70, 2010 (Released:2010-12-01)

放射線による生物学的影響を惹起する主要なDNA損傷はDNA二本鎖切断である。従来の放射線生物学的研究は、ガンマ線やX線によるDNA損傷の生成やその修復過程の研究が主であった。これらの研究により、DNA二本鎖切断の感知及び修復に関与する多数のタンパク質の挙動などの検討が詳細に行われ、大きなネットワークを形成するDNA損傷修復過程が明らかにされてきている。しかし、ベータ線によるDNA損傷の生成やその修復については殆ど明らかでない。ベータ線はガンマ線やX線とは飛跡や電離密度が大きく異なるため、DNAなどの生体高分子に生じる損傷の種類や分布にも相違があると考えられる。このような分子レベルでの損傷の違いは、例えばDNA修復タンパク質の挙動に変化をもたらすなど、DNA損傷修復過程にも何らかの相違を生じることが考えられ、それは引いては細胞や個体に対する生物作用にも影響を及ぼすものである。従って、トリチウムベータ線の生物作用を分子および細胞レベルで明らかにすることは極めて重要である。従来のトリチウムによる生物影響研究は、現象論に偏っていたきらいがあるが、近年の分子生物学的知見の蓄積により、ベータ線の生物影響について分子生物学的および細胞生物学的研究の推進が可能になってきた。本発表では、まず、これまでのトリチウム生物影響研究の概要を簡単に振り返り、現状を紹介する。併せて、現在我々が行っているトリチウムチミジンによる放射線適応応答誘導に関する結果を報告したい。
著者
立花 章
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

放射線適応応答では、DNA2本鎖切断(DSB)修復の正確度が上昇していると考えられる。放射線適応応答に関与するDNA修復機構を明らかにするために、DSB再結合に関与するDNAリガーゼの発現抑制を行った細胞での放射線適応応答を検討した。その結果、非相同末端結合修復のうち、「古典的経路」(C-NHEJ)で作用するDNAリガーゼIVが関与していることが明らかになった。これらのことから、放射線適応応答にはDNAリガーゼIVが作用するC-NHEJが関与しているものと考えられる。
著者
田内 広 井上 昌尚 大原 麻希 須坂 壮 松本 英悟 小松 賢志 立花 章
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.194, 2008 (Released:2008-10-15)

低線量率・低線量被曝による生物学的影響は、実験的裏付けが少ないために、放射線防護では高線量被曝データの直接的外挿から推定されているのが現状である。また、高LET放射線による体細胞突然変異では逆線量率効果といった特異な現象も報告されており、低線量率放射線被曝の生物影響解明は、科学的根拠に基づく放射線リスク評価のための重要課題でもある。我々は、トリチウムβ線による生物影響が低線量・低線量率でどのようになるのかを実験的に解明するために、体細胞突然変異の高感度検出系を開発し、低線量率のトリチウムβ線照射によるHprt欠損突然変異誘発を解析している。この突然変異高感度検出系は、Hprt遺伝子を欠失したハムスター細胞に正常ヒトX染色体を導入した細胞を用いており、従来の50~100倍の頻度で突然変異が誘発され、0.2GyのX線でも明らかな突然変異頻度上昇を検出できる。本研究ではトリチウム水(HTO)を培養液に添加し、線量率0.13~2.3cGy/hの範囲で0.3Gyの照射を行って突然変異誘発効果を解析した。その結果、中性子で逆線量率効果が認められる0.2cGy/h以下の線量率においても、誘発突然変異頻度の明らかな増加は認められなかったので、トリチウムβ線では、少なくとも0.13cGy/hまでは逆線量率効果は生じないことが示唆された。現在、さらに低い線量・線量率での実験を行っており、その結果を合わせて発表する予定である。また、得られた変異体クローンのヒトX染色体に起こった欠失範囲の解析により、低線量・低線量率では突然変異スペクトルが自然発生のスペクトルに近づくことが示唆された。
著者
村田 弘貴 藤井 伸之 田内 広 立花 章
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第54回大会
巻号頁・発行日
pp.232, 2011 (Released:2011-12-20)

細胞にあらかじめ低線量の放射線を照射すると、その後の高線量放射線による生物影響を低減する現象を放射線適応応答という。この現象は、ヒトリンパ球を低濃度トリチウムチミジンで処理すると、その後の高線量X線による染色体異常頻度が低下するというWolffらの報告によって初めて示された。その後、トリチウムチミジン以外に低線量X線や低濃度過酸化水素などによる前処理でも同様の現象が観察され、またヒト以外の生物種の細胞や個体でも見られることが明らかにされた。これらのことから放射線適応応答は生物の持つ基本的応答機構であると考えられるが、その分子機構は明らかになっていない。我々はこれまでにマウスm5S細胞を用いて低濃度過酸化水素処理による適応応答誘導について検討し、protein kinase Cα(PKCα)が関与することを明らかにした。本研究では、DNA損傷と適応応答誘導との関連を明らかにするために、低濃度トリチウムチミジン処理による放射線適応応答誘導についてm5S細胞を用いて検討した。まず、Wolffらの実験条件に従い、増殖期のm5S細胞に3.7 kBq/mlのトリチウムチミジンを加えて細胞に取り込ませ、その後confluentにして接触阻止により細胞の増殖を止めた状態を保って、5 Gy X線を照射し、微小核形成を指標として放射線適応応答を解析した。その結果、m5S細胞でも低濃度トリチウムチミジンの前処理により放射線適応応答が誘導されることを確認した。さらに、トリチウムチミジンの至適濃度を検討するために、0.37 kBq/ml及び37 kBq/mlの濃度のトリチウムチミジン前処理も行ったが、3.7 kBq/mlによる前処理が最も効率よく放射線適応応答を誘導した。トリチウムチミジンの至適濃度や処理時間に加えてPKCαの関与についても報告する予定である。
著者
田内 広 和久 弘幸 屋良 早香 松本 英悟 岩田 佳之 笠井(江口) 清美 古澤 佳也 小松 賢志 立花 章
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.79, 2010 (Released:2010-12-01)

高LET放射線に特異な生物現象として、体細胞突然変異や細胞癌化において線量率が非常に低くなると逆に生物影響が大きくなるという逆線量率効果が知られている。この現象は1978年にHillらによって初めて報告されたものであるが、その原因はいまだに明らかになっていない。我々は、マウスL5178Y細胞のHPRT欠損突然変異における核分裂中性子の逆線量率効果が、低線量率照射による細胞周期構成の変化と、G2/M期細胞が中性子誘発突然変異に高感受性であることに起因することを報告し、さらに放医研HIMACの炭素イオンビーム(290 MeV/u)を用いて同様の実験をおこなって、放射線の粒子種ではなくLETそのものがG2/M期細胞の突然変異感受性に大きな影響を与えていることを明らかにした。また、各細胞周期において異なるLETによって誘発された突然変異体のHprt遺伝子座を解析した結果、G2/M期細胞が高LETで照射された時に大きな欠失が増加することがわかり、G2/M期被ばくではDNA損傷修復機構がLETによって変化していることが示唆された。さらに、正常ヒトX染色体を移入したHPRT欠損ハムスター細胞を用いた突然変異の高感度検出系を開発し、総線量を減らすことによってHIMACのような限られたマシンタイムでの低線量率照射実験を可能にした。実際、この系を用いてLET 13.3 KeV/μmと66 KeV/μmの炭素イオンビーム(290 MeV/u)で突然変異の線量率依存性を比較した結果、66 KeV/μmで明らかな逆線量率効果が認められたのに対して13.3 KeV/μmでは逆線量率効果は認められなかった。これらのことから、高LET放射線による逆線量率効果は低線量照射による細胞周期の部分同調とG2/M期における高LET放射線損傷に対する修復機構の変化に起因していると考えられる。