著者
藤井 勝也 永松 浩 永松 有紀 小園 凱夫
出版者
九州歯科学会
雑誌
九州歯科学会雑誌 (ISSN:03686833)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4.5, pp.112-123, 2006-12-01 (Released:2017-12-11)
参考文献数
44
被引用文献数
2

チタンは,優れた生体適合性および耐食性を有するため,歯科用インプラントとして幅広く用いられるようになった.しかし,インプラントの上部構造をはじめ,ブリッジ,クラウン,インレーのような金属修復物にはチタン以外の合金を用いることが多い.電解液中で接触する異種合金間にはガルバニック反応に起因する電気化学的腐食が生じて電気化学的に卑な金属の腐食がさらに助長されることはよく知られている.したがって,歯科修復物を作製する際には,ガルバニック反応を避けるため,同一口腔内における異種合金の接触が起きないように設計するよう提唱されている.一方,異種合金が非接触状態で共存した場合についての腐食挙動は,まだ明らかにはなっていない.本研究においては,純チタンと異種合金が接触あるいは非接触状態で1.0%乳酸水溶液中に36週間共存した場合の電気化学的腐食について調べた.純チタンと陶材焼付用金合金の共存においては,接触,非接触に関わらず,これらの合金からの成分元素の溶出量にほとんど変化はみられなかった.共存により,金合金からのCu溶出量のわずかな増加および純チタンからのTiの溶出量の増加がみられた.金銀パラジウム合金については,Agの溶出抑制,Cuの溶出促進および純チタンからのTiの溶出促進がみられた.銀合金は単独浸漬においても,成分元素の溶出が顕著であった.純チタンと接触して共存した場合,Inの溶出促進傾向が認められたが,AgおよびTiの溶出は抑制された.それらを接触させない場合も同様の傾向を示した.純チタンとの共存により,コバルトクロム合金からのCoの溶出は促進された.接触および非接触のいずれでも,純チタンからのTiの溶出は増加する傾向にあった.本実験結果から,チタンおよび異種合金試験片を組み合わせた場合,陶材焼付用金合金を除くいずれの合金においても,非接触の状態でも接触した場合と同様に腐食が起こり得ることがわかった.チタンインプラントの設計に当たっては,口腔内に存在する金属修復物からのアレルギーあるいは毒性成分の溶出が促進されることを避けるために,口腔内の総合的な生体適合性を十分に考慮すべきであることが示唆された.