著者
藤井 広重
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.7-18, 2022-02-15 (Released:2022-02-15)
参考文献数
58

2013年と2017年のケニアでの総選挙は比較的平和裏に実施され、暴力的な争いは限定的であった。他方で、ケニアでは選挙をめぐる裁判が増加し、権力に対する司法という公式なルールが果たす役割が高まる司法化の進捗がみられた。近年、アフリカではケニアのほかにも、マラウイ、ザンビア、ナイジェリアなどで、大統領選挙に関連した裁判が提起され、権力に対する公式なルールが果たす役割は高まっている。上記のいずれの国でも大規模な暴力には至っておらず、アフリカ域内の選挙をめぐる司法化は、平和な選挙の実施における重要な要素かもしれない。そこで本稿は、ケニアの選挙をめぐる司法化が、次回2022年に予定されている大統領選挙にどのような影響を与えているのか、裁判所での議論を手がかりに考察した。そして、ケニアでは制度改革を契機とした司法化が進捗する一方で、法に基づく公式な制度が、法に基づかない非公式な制度に補完されている現況を本稿での考察によって明らかにした。このため、必ずしも裁判にて紛争そのものが解決されるとは言い切れず、政治エリートの個人的な取引が引き金となって、2022年大統領選挙をめぐる緊張がさらに高まる可能性は否定できないことを指摘した。
著者
藤井 広重
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.107-119, 2016-11-04 (Released:2020-03-12)
参考文献数
36

2011年にスーダンから独立した南スーダンは、2013年12月に政府側と反政府側との間で大規模な衝突を経験する。この衝突は、民族紛争の様相を呈し、政府および反政府の両者が、市民を巻き込む大規模な人権侵害に関与したと言われている。国際社会は、国際的な刑事裁判所の必要性を訴えるが、通常、政府の関与が疑われる中、人権侵害を捜査・訴追することを目的とした国際的な刑事司法のメカニズムを設置することは困難である。しかし、南スーダン政府は、2015年8月、南スーダンハイブリッド刑事法廷設置に言及した「南スーダンにおける衝突の解決に関する合意文書」に署名する。本稿ではハイブリッド刑事法廷をめぐる、国際社会と南スーダン政府のそれぞれの論理を紐解くことで、2015年8月合意文書にハイブリッド刑事法廷の設置が含まれ、アフリカ連合が同法廷の設置を主導していることの背景を明らかにする。
著者
藤井 広重
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.61-72, 2019-09-28 (Released:2019-09-28)
参考文献数
33

本稿の考察は、司法および人権アフリカ裁判所(ACJHR)の設置が進捗しない要因を解き明かすことを目的としている。ACJHRは、国際刑事裁判所(ICC)によるアフリカでの司法介入に対する反発の結果、オルタナティブなメカニズムとして生み出されようとしていた。だが、多くのアフリカ諸国がACJHRの構想に賛成した一方で、設置のためのマラボ議定書を批准した国はない。本議論を紐解けば、マラボ議定書が有する現職の国家元首と政府高官の訴追免除規定によってヨーロッパ諸国からの支援を得ることができず、また、マラボ議定書成立当初はNGOなどからの批判も見受けられたが、近年は現実に即した規定でありACJHRは機能するのではないかと肯定的な評価に変わってきた。ここに、ICCに対するアフリカ諸国のスタンスに関わらずACJHR設置議論が進捗しない要因を見つけることができる。さらにこのような考察を通して、ICCに対し影響力を行使しようと試みるアフリカの姿も垣間見えてきた。本稿での考察は、アフリカをICCとの関係性において客体としてではなく主体として捉えることが重要であることを示すことにつながった。