著者
藤原 久仁子
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.67-90, 2003

個人の経験する「マリア出現」は、神が示す一つの「奇跡」として人々に解釈される。しかし、「奇跡」が時の経過とともに「癒し」の「奇跡」に読み替えられ、「マリア出現」を契機とする巡礼地の成立後、「癒し」に関する新たな信仰が広まる場合がある。本稿では、マルタにおけるギルゲンティのマリア巡礼地を対象に、「出現のマリア」に対する崇敬と特定の「場所」や「物」とが結びついた、新たな「癒し」の信仰が巡礼者間に形成される経緯の検討を行う。具体的には、巡礼地で配布される小冊子に掲載された「奇跡」の体験談を分析対象に、ギルゲンティの泉の水、聖像、聖写真、スカプラリオ、「マリア出現」の体験者、ギルゲンティのマリア崇敬集団に着目し検討を行う。そして、巡礼地というさまざまな人が参集する場において、新たな信仰と実践が相互流通する実態を明らかにし、「物」が「癒し」の「奇跡」を物象化した媒体として機能すると同時に、異なる巡礼対象の宣伝媒体としても機能する点を指摘する。