著者
中西 尋子
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.47-69, 2004-06-12 (Released:2017-07-18)

統一教会の合同結婚式では、信者は自ら選んだ相手とではなく、教祖が選んだ見知らぬ相手と結婚する。本稿では、なぜ信者は合同結婚式を受け入れ、その後の結婚生活を継続できるのかを合同結婚式で韓国人男性と結婚し、韓国農村部に暮らす日本人女性たちへの聞き取り調査から考察する。統一教会がめざす「地上天国」は、国家・民族・宗教が垣根を越えて一つになった平和な世界であるとされる。それは神の血統をもった人類が生み殖えることによって実現されるという。彼女たちは入信前から生きる意味を求め、世界の平和について関心をもっていた。韓国人男性と結婚し、神の血統を持つとされる子どもを生み育てることは、結婚生活それ自体が平和への実践となり、生きる意味と意識される。ここに彼女たちが抱いていた欲求と統一教会の結婚観との一致がある。彼女たちは現実の結婚に希望をもっていなかったけれども、統一教会の結婚は意味ある結婚となった。
著者
真鍋 祐子
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.46-67, 1996-06-15 (Released:2017-07-18)

1970年11月13日、ソウルにある零細裁縫工場の労働者であった全泰壹は、勤労基準法の遵守を叫ぶ示威の最中、抗議のための焼身自殺を遂げた。体制をはじめとする他者たちに向けて演じられた彼の死は、60年代以降の飛躍的な経済成長め裏側で生存権を剥奪された民衆が、初めて歴史の主体として登場した事件と評される。伝統的な儒教の孝倫理に背く自殺という手段が敢行されたにもかかわらず、むしろ「冤魂」をめぐる両義性のゆえに、彼は韓国の民衆運動において尊崇されるべき殉教者のモデル、すなわち「烈士」に祀られた。本稿はその神話化過程を分析する試みであり、趙英来著『全泰壹評伝』(1983年)を資料とする。著者の析出した全泰壹闘争の在り方からは自己スティグマ化による価値逆転の過程が見出され、また生と死に関する記述から「民族民主主義」のための供犠としての意味づけが示唆された。ゆえに、それは80年代へ通ずる殉教者神話となりえたのだろう。
著者
白波瀬 達也
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.25-49, 2007-06-09 (Released:2017-07-18)
被引用文献数
2

本稿は野宿者が集住する最下層地域、釜ヶ崎において顕著にみられるキリスト教の「ホームレス伝道」とその受容状況について考察する。日雇労働者の街として知られる釜ヶ崎は、1960年代後半から1990年代初頭にかけて、労働運動が大きな影響力をもっており、キリスト教の直接的な伝道が困難な状況にあった。1990年代中頃に釜ヶ崎は大量の野宿者を生むようになるが、それに伴って労働運動の規制力が弛緩し、1990年代後半にホームレス伝道が急増するようになった。現在、10の教会/団体が食事の提供を伴った「伝道集会」を開催するようになり、多くの野宿者が参加しているが、実際に洗礼を受け、特定の教会にコミットメントをもつようになる者は極めて少ない。宗教と社会階層の関係に着目したこれまでの研究では、社会移動の激しい最下層の人々は特定の宗教シンボルとの関係がランダムあるいは希薄だとする議論が一般的であったが、本稿はこの理論的前提を具体的なフィールドデータから検証し、最下層の人々に特徴的な信仰と所属の様態を把握する。
著者
中野 毅
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.111-142, 2010-06-05 (Released:2017-07-18)

民衆宗教とは社会的文化的政治的マイノリティーとしての「特徴」と「自己認識」を有している宗教運動であり、その研究方法には指導層と一般信者との階層差や格差、内部の非対称な支配関係などを捉えうる独自の方法が必要である。一試論として創価学会の運動を民衆宗教という視点から、社会層と国家との関連に限定して考察した。農村部から流入した都市下層民に、現世での新たな存在意義を確信させるアイデンティティー再確立過程に創価学会運動の民衆性を読み取ったが、社会層が上昇あるいは拡散していく中で、人生の勝利者・成功者という意識が強調されてマイノリティー意識が希薄化し、民衆宗教としての特徴を失っていった。この変化が決定的になったのは公明党が自民党との連立政権に参加した時期である。主たる支持者である創価学会員と党の理念的距離が大きく乖離し、支援運動の空転を招いた。両者の関係の再検証、再検討が必要な段階に至ったと言えよう。
著者
塚田 穂高
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.111-126, 2019-06-08 (Released:2021-06-05)
参考文献数
35

戦後日本社会において、「宗教」概念や「宗教と政治」についての認識がどのように構築され、浸透していったのかを捉える際、数々の政教分離訴訟の積み重なりは重要なフィールドと言える。本稿では、愛媛玉串料訴訟――愛媛県知事が靖国神社の祭礼などに「玉串料」などを公金から支出していたのが憲法違反ではないかと問われた――のケース(1982年提訴)を取り上げる。同訴訟は従来、憲法学の領域から最高裁における政教分離に関する戦後初の違憲判断がくだされた重要判例として着目されていた。本稿では、その背景と経緯、そして判決の余波に至る一連の経過を分析の俎上に乗せる。分析の結果、同訴訟が靖国神社問題と政教分離訴訟の一連の流れのなかで生起したこと、裁判のなかで「宗教」ないし「宗教と政治」をめぐる複数の概念と視角が錯綜したこと、判決が各陣営や領域に現実的影響をもたらしたことを明らかにする。
著者
濱田 陽
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
no.7, pp.23-45, 2001-06-17

現代日本ではキリスト教徒でない多くの人々がキリスト教の結婚式を選ぶ。本論は、世界的に稀なこの現象を取り上げ、日本のカトリックとプロテスタントが「無宗教」社会と接触してきたそれぞれの態様を考察する。研究では、キリスト新聞、日本カトリック宣教研究所資料の他、婚礼業界紙、消費者情報誌等を用い、司式側の聞き取り調査、関連宗教団体、業界への問い合せによる検証を加え、分析する手順を採った。具体的には、2章でキリスト教式結婚式の普及とイメージ形成をまとめ、神前結婚式と比較して社会要因にふれる。3章で日本カトリック教会とローマ教皇庁の対応、4章でプロテスタント界に於けるキリスト教ブライダル宣教団の役割に焦点をあて、日本のキリスト教界のキリスト教式への関わりを分析する。総じて、現行のキリスト教式の普及に連動した、両キリスト教界の「無宗教」社会への特殊化した関わりを「対話」として論じる。
著者
塚田 穂高
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
no.15, pp.67-90, 2009-06-06

近・現代日本の救済宗教において、ナショナリズムとユニヴァーサリズムがどのような形で存在しているのか。本稿では、2つの「新新宗教」-「真光」と「幸福の科学」の世界観ないし教えにおけるナショナリズムの論理を解明するとともに、特に90年代初頭という国際社会・日本社会の転換期・変動期に、同時代の宗教運動がどのような反応を示したかを見ていく。すなわち「新新宗教」が「時代社会論」であるかの検証の意義を持つ。分析の結果、真光は、『竹内文書』と通底する霊的な日本中心主義・人類日本起源説・天皇統治説といった起源神話をそのナショナリズムの中核としており、それが先進国・国際貢献といった時代意識と結合することで「霊的貢献」という宗教ナショナリズムが形成されていた。他方、幸福の科学は、経済的優位性と高級諸霊の存在に裏打ちされた選民・使命意識が、90年代初頭の国際情勢に反応する形で醸成された、独自の宗教ナショナリズムを有していた。
著者
繁田 信一
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.77-98, 1995-06-10 (Released:2017-07-18)

本稿の目的は、医療および呪術の平安貴族社会における治療手段としてのあり方、および、平安貴族の治療の場面における医療と呪術との関係を把握することにある。この目的のため、平安貴族の漢文日記(古記録)を主要史料として用いるが、考察にあたっては近年の医療人類学的研究の成果をも利用し、次に示す諸点について明らかにする。(1)平安貴族社会において、医療および呪術は一定の専門知識にもとづく技術として認識されていたのであり、また、(2)平安貴族は医療と呪術とをそれぞれ別個の技術体系に属するものとして認識していた。したがって、(3)平安貴族社会における治療手段は、医療と呪術とによる二元的なものだったのであるが、(4)医療と呪術とは相互に排除し合う関係にあったわけではなく、そのいずれもが各々の資格において有効な治療手段として認識されていた。また、(5)呪術は医療の有効性および安全性を保障・保証するものと見做されてもいたのであり(6)総合的に見るならば、平安貴族社会における医療と呪術との関係は相互補完的なものであった。
著者
山口 瑞穂
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.65-79, 2019-06-08 (Released:2021-06-05)
参考文献数
39

本稿は、1970年代半ばから1990年代半ばの日本におけるエホバの証人の歴史展開を、宗教運動論や教団組織論の視点から検討し、この時期の発展要因を明らかにする。検討に際し、教団側の刊行物だけでなく教団外からの情報も採用し、世界本部の布教戦略に注意を払った。ハルマゲドン1975年説が期待外れとなり、離脱者の増加という現象に直面した世界本部は、以前にも増して「終わりが近い」ことを強調し、多くの時間を宣教に費やす「開拓奉仕」と称される活動を督励した。日本支部の信者に占める「開拓者」の比率は群を抜いて高く、その多くは非信者の夫をもつ主婦たちであった。エホバの証人の救済観や教義は、日本人には本来受け入れにくいものであったが、「家から家」への戸別訪問による宣教に多大な時間が投じられたことが入信者の獲得と教勢拡大につながった。世界本部と日本支部の強固な関係は、献身的な活動を引き出した看過できない要素となっている。
著者
小島 伸之
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.69-86, 2008

特別高等警察の宗教取締を評するに際して、国家権力による「宗教弾圧」という定型句が一般に用いられることが多い。研究者の多くもそれを受け入れているといえよう。しかし、「宗教弾圧」を行った側である特高警察が、なぜ宗教を取締ったのかについて、その論理を内在的且つ実証的に検討した研究はそれほど蓄積されていないのもまた事実である。本稿は、特高警察の宗教取締の論理を内在的に理解するひとつの試みとして、一般に特高警察が弾圧した二大不敬教団事件と位置づけられている「第二次大本事件」と「ひとのみち教団事件」を対比し、「不敬」の背後にある両事件の異質性を明らかにすることを目的としている。具体的には、第二次大本事件とひとのみち教団事件について、先行研究での位置づけを整理した上で、『特高月報』の取締報告を繙き、先行研究が「二大不敬事件」-「国体」に対する「異端」説に対する取締-として説明してきた両教団の取締が、それぞれ反体制的社会運動、呪術迷信的社会運動という異なる理由に基づいて取締を受けたことを明らかにするものである。
著者
菅 浩二
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.21-38, 1999-06-03 (Released:2017-07-18)

本論文は、1925(大正14)年の「朝鮮神宮御祭神論争」に関する先行解釈の再検討と、新たな解釈を試みるものである。従来の解釈では歴史事実の説明に限界がある。これはこうした解釈が当時の日韓同祖論を考慮していない事による。この論争では、政府・総督府側の皇祖神奉斎論も、神社人側の檀君=朝鮮国魂神奉斎論も、共に日韓同祖論に依拠している。筆者は、日韓同祖論を近代的「伝統の創出」として捉える。その上でこの論争の背景に、当時の半大陸国家・日本社会における朝鮮半島の特異な位置がある事を指摘する。更に、「国魂」に関する議論を通じ、こうした朝鮮の特異性が神社信仰の土着主義的性格とどのように関わったかをも考察する。
著者
小池 靖
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
no.4, pp.49-77, 1998-07-06

本稿は、ネットワーク・ダイレクトセリングと自己啓発セミナーを題材に、現代社会において宗教的/霊的/心理学的アイディアが消費され功利的に活用されていく構造を考察するものである。両者は、対人関係を実利的にとらえ、こころをコントロールすることによって現世で成功しようというアメリカにある古くからの流れに密接に関わっている。両者は、セールスマン養成のトレーニングに理念的/歴史的基盤があり、顧客と良好な関係を取り結ぶ技術が、他者と調和的な関係を築こうとする態度へと変容している。競争的な現代社会においては、商業的だがゆるやかに組織された様々なネットワークが、世俗化や個人主義に矛盾しないかたちで、新しい生き方や自己の探求の場を提供している。