- 著者
-
藤原 惠洋
- 出版者
- 日本デザイン学会
- 雑誌
- デザイン学研究 (ISSN:09108173)
- 巻号頁・発行日
- vol.1992, no.90, pp.57-64, 1992-03-30 (Released:2017-07-25)
伝統的細部である唐破風曲線は,明治以降の伝統的建築の評価過程で編年的指標を与えられる一方,和風建築の重要な意匠要素として応用された。本研究では,まず明治以降の建築様式史研究を基に,時代が古代平安期まで遡れば唐破風曲線は緩勾配で美しく,中世期以降の曲線は勾配を強くしながら桃山・江戸に至ると急勾配になり見苦しくなる,という形からの編年的評価が行われた点を明らかにした。次に,明治中期以降の和風建築の設計に様式設定が加わる経緯を示し,唐破風曲線の創造的構成が様式設定の時代目標を近世期から中世期・古代期へと順次遡らせた変遷過程を見出し,実際の遺構例を通し明治30年代から大正初期へかけた近世桃山様式,明治40年代以降の中世鎌倉様式,大正以降の古代平安様式へ移行した経緯とその内容を明らかにした。また,編年的評価を基にした応用は建築家の様式設定的設計に多く見られ,一方,工匠的系譜には技術的視点を有した独自の評価と応用があった点も究明した。