著者
藤岡 真樹
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.99, no.3, pp.419-456, 2016-05

本稿は、ハーヴァード大学ロシア研究センターが空軍の人材開発研究所との契約研究に基づいて実施したソ連研究である難民聞き取り計画(RIP、一九五〇年~五四年) の歴史的経緯を大学と軍部との人的ネットワークに注目しつつ解明しようとするものである。一九五〇年、人材開発研究所とロシア研究センターは、ソ連空爆にあたっての都市選定を目的とした研究契約を締結し、ドイツとオーストリア等に居住していたソ連人難民への聞き取り調査を開始した。しかし研究者達が人々の行動に関する行動科学研究への強い関心を抱いていたことから、RIPは「ソ連の社会制度の研究」へと変貌した。これに対し連邦議会をはじめとする反共主義者が激しい攻撃を浴びせた結果、RIPは中止に追い込まれた。RIPの研究成果はその後に刊行されたものの、それらは軍部との人的ネットワークの緊密さゆえに、ソ連人難民に関する貴重な資料を用いながらもソ連の制度や社会に対する画期的な視座や知見を提示することができないという意味で、学術的な「停滞」に陥ったことを示すものとなった。ただし、こうした「停滞」状況は軍部とのネットワークが消滅することで大きく変わることになる。