著者
山縣 弘忠 藤本 光宏 中川 明
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.32-39, 1976-03-01

EMS浸漬処理後に種子胚中に残留するEMSの効果ならびにこの効果に対する水洗温度の影響を知るために,水稲品種銀坊主ならびに銀坊主に由来するアルビナヘテロ系統の気乾種子を,種々の温度条件下(0℃〜30℃)でEMS溶液(0.8%または0.9%)に浸漬したのち,それぞれ異なる水温条件(10℃〜40℃)で水洗を行ない,処理当代における障害,体細胞突然変異出現率ならびに次代における葉緑,出穂日および稈長に関する変異体出現率について水洗温度の効果を検討した。銀坊主種子のEMS処理当代の障害および次代における突然変異出現率は,水洗温度の上昇にともなって急激に増加した。またこのような水洗温度の効果は浸漬処理温度の上昇によっても増大することが認められた。つぎに,アルビナヘテロ系統種子のEMS処理当代植物における体細胞突然変異の出現率についても,上記銀坊主種子処理の場合と同じ水洗温度効果が認められ,とくに葉緑突然変異体出現率とはまったく傾向が一致していた。このことから,突然変異誘起効果の早期判定にはアルビナヘテロ系統の利用が有効と推論された。銀坊主種子,アルビナヘテロ系統種子いずれの場合も,水洗温度の効果は,浸漬処理温度の効果には及ばぬまでもかなり大きいものであり,したがってEMS処理に際しては水洗時における環境要因,とくに温度の制御に十分留意する必要があると考えられる。