著者
坂本 英俊 藤本 萌 福田 悟
出版者
帝京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015

本研究は敗血症性脳症において、睡眠・覚醒をつかさどる神経核の機能異常の解明と共に睡眠・覚醒サイクルを制御すると考えられる視交叉上核への影響を明らかにすることである。最初の課題は、視交叉上核により制御されている松果体からのメラトニン放出が安定して測定できるマイクロダイアリシス法を確立することであった。従来の方法は、上矢上静脈洞からの出血や松果体までの距離が長く手技的に問題であった。我々の新手法は、マイクロダイアリシスガイドカニューラを松果体右上方から角度17°にてアプローチするもので、特殊な回路を必要とせず出血の危険性もない。この方法でラットにおける暗期(20時~8時)のメラトニン分泌量を測定したところ、1日目0.30±0.38、2日目0.21±0.20、3日目0.15±0.16、4日目0.15±0.15(pmol、平均±標準偏差)の放出がみられた。一方、明期(8時~20時)ではメラトニン分泌量は1日目0.07±0.10、2日目0.02±0.02、3日目0.01±0.01、4日目0.01±0.01(pmol)とごく微量であった。我々の開発した新メラトニン測定法は、従来の方法による結果とほぼ同じであり、今後の睡眠・覚醒研究に有効と考えられた。次に、この手法を用いて敗血症性脳症時の暗期メラトニン放出を検討した。敗血症性脳症モデルとしては、脳内での炎症を媒介する蛋白であるHigh mobility group box 1蛋白(HMGB1)脳室内投与モデルを用いた。HMGB1を1μg/5μl脳室内投与すると、1日目および2日目のHMGB1投与群の暗期メラトニン放出量は生理食塩水投与群に比較しどちらも有意に抑制された(P<0.01二元配置分散分析)が、3、4日目の放出量は影響されなかった。以上の結果より、敗血症性脳症時にはメラトニン放出が抑制され睡眠・覚醒に影響を及ぼすことが示唆された。