- 著者
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藤永 豪
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2005, pp.201, 2005
1.中国の経済成長と農山村 周知のように、現在、中国は急速な経済発展を続けている。1990年代半ば以降は、さすがに経済成長率が10%を下回ったものの、その後も毎年7_から_9%を維持している。今後も2008年の北京オリンピックおよび2010年の上海万博に向けて,中国国内の需要拡大はほぼ確実であり、2005年も、8.4_から_8.5%の経済成長を予測している。これは、故!)小平中国共産党総書記の指導のもと、1978年より始められた改革開放政策の結果である。この改革はもともとは貧困に喘ぎ、経済発展から立ち遅れていた農村部から始められた。1979年には「農業の発展を加速する若干の問題についての決定」が可決され、さらに1980年代に入ると、国から請け負った以上の農業生産物は、原則として自由に売買でき、各戸で利益を上げることが許される、いわゆる「生産責任制(生産請負制)」が確立された。そして、「先に豊かになれるものから豊かになれ」という「先富論」のもとに、沿岸地域と内陸地域の経済格差の問題が顕著化しながらも、北京や上海などの大都市近郊の農村では、「万元戸」や「億元郷」が出現するに至った。2.北京市郊外における農山村の経済成長 このような経済情勢のもと、首都である北京市郊外の農山村も急速な経済成長を遂げた。とりわけ、前述した3年後の北京オリンピックを視野に入れ、急ピッチで開発が進んでいる。中心城区(西城区、東城区、宣武区、崇文区)に接する海淀区や朝陽区、石景山区、豊台区では大規模な宅地開発が行われ、農村は中高層マンションへと姿を変えている。また、北京市郊外を走る「五環路」沿線の農村は、環境政策の方針から、政府によって取り壊され、植林が進んでいる。 一方、さらに郊外に位置する門頭溝区や昌平区、順義区、通州区、大興区、房山区等では道路網が整備され、北京中心部へのアクセシビリティが向上したこともあり、土木・建設・製鉄業などの都市開発と直結した郷鎮企業が次々と設立された。それらの中には、近年の土地に関する法規制の緩和もあって、不動産業にまで手を広げ、住宅団地の建設・販売まで行う企業も出現している。このほか、観光開発が進む農山村もある。伝統的な景観を保全し、北京市やその周辺地域をはじめとする中国国内だけでなく、海外からの観光客をも積極的に呼び込んでいる。3.北京市郊外の農山村景観の変容 以上のような経済発展の中で、北京市郊外の農山村はその景観を大きく変容させている。マンションへと姿を変えた村、観光開発のために景観保護が施される村、政策によって移転・廃村が決定・実行された村、郷鎮企業の成功によって集落全体が近代的な住宅群へと変化した村など様々な景観が広がる。 本発表では、統計資料等には限界・不足する点があるが、これらの農山村の景観変化に関するいくつかの事例について、写真等を用いながら紹介し、景観から見えてくる中国農山村の現状について、若干の報告をしたいと考える。[付記] 本報告は、神奈川大学21世紀COEプログラム「人類文化研究のための非文字資料の体系化」における若手研究者の海外提携研究機関派遣事業の一部である。