著者
藤波 ゆかり
出版者
日本音楽教育学会
雑誌
音楽教育学 (ISSN:02896907)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.1-11, 2007 (Released:2017-08-08)
参考文献数
26

本研究は, 箏曲教習における楽譜普及の過程を, 雑誌『三曲』誌上の楽譜をめぐる論をたどる中から, 明らかにしようとするものである。箏曲教習における楽譜の使用は昭和10年頃には普及し, 昭和13年には近い将来に箏も楽譜での習得が慣例となることが予測されていた。組織的・体系的・効率的教授が必要な学校教育の中で楽譜が用いられるようになったことが楽譜普及の一要因となった。また楽譜が学校以外の場にも普及した要因としては, 晴眼の箏曲家が増えたことも挙げられる。地歌箏曲家の大勢が視覚障害者から晴眼者に移行していく過程と楽譜が普及していく過程は, 重なり合っている。 昭和期には, 楽譜を使うことにより生じる弊害として, 安易に教授の効率化が図られること, 楽譜に頼りすぎることによって仕上げが疎漏になること, 楽譜を用いた教授と従来の教授法が噛み合わないこと等が論じられた。楽譜の普及のための課題としては楽譜知識の普及と, 記譜法の整理統一という課題も挙げられた。