著者
徳岡 良則 早川 宗志 木村 健一郎 高嶋 賢二 藤田 儲三 橋越 清一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.126, 2015

足摺宇和海国立公園内の愛媛県愛南町鹿島にはアオギリの樹林が約6 haあり、貴重な群落としてその重要性が指摘されてきた。アオギリは豊後水道沿岸域に点在するが、遷移系列上の位置づけや過去の資源利用に関する知見は限られている。対象地域におけるアオギリの分布を調査した結果、本種は撹乱地に早期に分布を拡大する先駆樹種的性質が示された。地域住民の証言では第二次大戦前後には主にアオギリの繊維から綱を作り農具や漁具等の材料とし、一部の個体は山地斜面、耕地境界、人家裏に植栽されていた。アオギリにはジョウドノキ、ジョウドギ、アオギ、カタナギ(愛媛県佐田岬)、ヘラ(愛媛県由良半島、大分県津久見)、イサキ(高知県大月町、大分県蒲江、宮崎県北浦)の地域呼称があった。漁村でのアオギリの採取・利用法や個体管理に関する証言、豊後水道を挟んだ大分県と愛媛県や高知県に共通したアオギリの地域呼称が存在することは、沿岸集落に現存するアオギリの一部は、海路を通じた植物利用文化の伝播に由来する可能性を示唆している。資源利用の役割を失ったアオギリは、現在点在する成木を種子源として、周囲の陽地へ今後も定着していくと予想される。